柔道関連書籍紹介
高い志を持って勝負にこだわり、引退後も柔道界の発展に尽くしてきた佐藤宣践氏。
佐藤氏の柔道人生を記した自伝書「力必達」には、柔道の魅力や柔道界に対する熱い思いが綴られています。
佐藤宣践先生退職記念集「力必達」

- 目次
11.己を尽くす−日本柔道の発展に向けて
IJF理事の任を終え、次は全柔連からの推薦で平成19年(2007)5月のアジア柔道連盟(JUA)会長選挙に立候補することになった。
そんな中、平成18年(2006)5月に長年アジア柔道の発展に尽力された会長の竹内善徳先生が出張中の韓国で急逝された。竹内先生は東教大の先輩であり、思いもよらない訃報に驚いた。
何としても竹内先生の仕事を引き継いでアジア柔道を発展させたいと決意し、アジア柔道の地位向上、様々なプロモーションの開催と成功、支援の拡大と充実の3つの公約を掲げて選挙活動を展開したが、対立候補のアルアンジ・オベイド(JUA副会長、クウェート)に敗れた。
一口にアジアと言っても文化も言葉も違う。日本やヨーロッパと違い会議もスローペースである。私も、急げども焦らず、「DO MY BEST」の姿勢で立ち向かった。国内の選挙とは違って選挙違反を取り締まる法律は存在しない。あえて言えば、スポーツマンシップ、良識だろうか。
この選挙を通して、世界の柔道は政治や経済などの国際情勢を反映して常に流動的で、各国、各地域にはそれぞれの歴史と事情があり、文化的背景が異なる国々を一つにまとめることはなかなか難しいことを改めて痛感した。
力及ばず選挙に敗れたが、目標を達成することができなくても、自分自身のできることを全て出し切れば納得できる、ことを学んだ。「尽己」の精神である。
国内では、平成16年(2004)4月から学生柔道界の役員を引き受け、東京学生柔道連盟会長を平成18年(2006)3月まで務め、4月からは推されて(社)全日本学生柔道連盟会長の職に就いている。また同時に(財)全日本柔道連盟の副会長に就任した。
これは私の持論だが、日本の柔道は学校柔道に支えられてきた歴史があり、その学校柔道の頂点が大学柔道である。だから大学柔道をもっと充実させることが大切で、その一つの方法としてメディアの活用を推進し大学柔道を華やかにしたいと考えている。試合方法も工夫することが必要だろう。いろいろなアイデアが出る雰囲気を作りたい。
もちろん、学生柔道の本質は教育であり、文武両道の考え方を忘れてはならない。その点、最近、柔道が強ければ希望する高校、大学に入学が可能になるスポーツ推薦制度が浸透し、基礎学力不足の学生が増えており、憂慮している。我々は、常に柔道の原点を見失ってはいけない。
柔道のこころを社会で活かす。その社会での活動は、畳の上での勝負と違って大変多様で複雑、そして流動的である。高い理想がなければ時代の波に流され、欲望の渦に巻き込まれてしまう。
私は、柔道の勝負を通して「力必達」を体得し、社会での諸活動を通して「尽己」を知った。これまでの柔道人生で得た貴重な教訓である。この教訓を活かし、これからの柔道人生を歩んでいきたい。