柔道関連書籍紹介
高い志を持って勝負にこだわり、引退後も柔道界の発展に尽くしてきた佐藤宣践氏。
佐藤氏の柔道人生を記した自伝書「力必達」には、柔道の魅力や柔道界に対する熱い思いが綴られています。
佐藤宣践先生退職記念集「力必達」

- 目次
5.英国留学の思い出
昭和63年(1988)10月から翌年の3月までの半年間、私は英国に滞在した。英語の実力、中でも会話能力を磨くこと、ヨーロッパの柔道事情を調査しIJF教育理事選挙の準備をすることが目的の留学だった。
研修先は、エセックス大学(University of Essex)及びヨーロッパ最古の柔道クラブである英国武道会を選んだ。また、英国の他にオーストリア、フランス、スイス、西ドイツ(当時)、デンマークを訪れた。
柔道は、講道館柔道創始者の嘉納治五郎師範自らが海外への普及に尽力された歴史を持っている。嘉納師範は、英国武道会でも柔道の紹介をされている。同時に嘉納師範が国際オリンピック委員会(IOC)委員でもあったことから世界のスポーツ関係者の信頼厚く、柔道の本質は日本人が想像するよりもはるかに正確に認識されている。
嘉納師範が回られたヨーロッパの国々を訪ねることは、とりもなおさず柔道国際化の足跡と現状を、この目で確認することであった。短期間だったが、良い勉強をさせてもらった。
良いことは、より多くの選手、指導者に経験してもらいたい。私は自分の経験を踏まえ、制度作りにも努力した。現在では日本のトップアスリートが現役を引退した後、海外で研修する制度が定着している。
さらに、東海大学柔道部でも国際交流を推進し、将来有為の学生、卒業生が海外留学や海外指導ができるような体制を築いている。東海大学柔道部関係では柏崎克彦、山下泰裕、中西英敏、恩田哲也、山田利彦、中村行成、兼三兄弟、上水研一朗、井上康生、大川康隆等が私に続いている。
半年間の思い出は数多い。一つひとつを記すことはできないので、帰国に際して書いた「留学日記」の総括を紹介する。
私のヨーロッパ研修も終わった。クリスマス期間を除き、正味5ヵ月の研修だった。
英語がなかなか進歩せず、泣きたくなる時も何度かあった。日本を出発する時に立てた目標に比べたら3分の1にもいってないような気がする。ようやく初段に上がった程度か。
しかし、この研修期間がなかったなら永久に現在のレベルに達し得なかったように思う。何事も素質と努力と、そして時間の必要なることを痛切に感じた研修だった。
英語研修もさることながら、ヨーロッパ5ヵ国を1ヵ月に渡って回ったことも大きな収穫だった。日本人と欧州人の思想、文化の相異からくるズレなども身をもって体験できた。例えば、カラー柔道衣論など。
また日本から離れ、家族、仕事、全てのことから離れた半年間。これまでの人生を振り返り、今後の人生を考えるうえでも大切な時間だった。こうした機会を与えてくれた多くの人々、特に久美には感謝の気持ちでいっぱいである。久美には泰裕を預かった時以来の大きな借金をしたように思う。
この貴重なる体験を後半の人生に必ずや生かし切るためには、帰国後も英語学習を少しでも続けていかなくてはと思う。
1989年3月16日
University of Essexにて
留学の一つの成果として英文の柔道テキストを出版することができた。ロンドンにあるIPPON BOOKS LTD.の「Ashiwaza by Nobuyuki Sato」である。
留学後、私の英会話が上手になったかどうかは、周囲の評価をお聞き願いたい。