外国人選手に圧倒的な強さを誇る、志々目愛。約4年間も外国人選手に負け知らずで、57連勝という、すさまじい連勝記録を打ち立てた。国際大会は相性が良く、2017年のブダペスト世界柔道選手権大会や2018年の柔道グランドスラム・デュッセルドルフ、2019年の柔道グランドスラム・パリなどで優勝。外国人選手と戦うことになる五輪(柔道)は、志々目にとってうってつけの舞台となるだろう。
※2020年2月10日現在
志々目 愛

- 生年月日
- 1994年1月25日
- 所 属
- 了徳寺大学職員
- 出身道場
- 柔心館道場
- 出身大学
- 帝京大学
- 2017年
-
- 柔道グランプリ・デュッセルドルフ 52kg級 3位
- 全日本選抜柔道体重別選手権大会 52kg級 優勝
- アジア柔道選手権大会 52kg級 優勝
- ブダペスト世界柔道選手権大会 52kg級 優勝
- 柔道グランドスラム東京 52kg級 3位
- 2018年
-
- 柔道グランドスラム・デュッセルドルフ 52kg級 優勝
- 全日本選抜柔道体重別選手権大会 52kg級 2位
- 柔道グランプリ・ザグレブ 52kg級 優勝
- バクー世界柔道選手権大会 52kg級 2位
- 柔道グランドスラム大阪 52kg級 3位
- 2019年
-
- 柔道グランドスラム・パリ 52kg級 優勝
- 全日本選抜柔道体重別選手権大会 52kg級 2位
- 柔道グランドスラム・バクー 52kg級 2位
- 東京世界柔道選手権大会 52kg級 3位
- 柔道グランドスラム大阪 52kg級 3位
- 2020年
-
- 柔道グランドスラム・パリ 52kg級 3位
志々目愛 とは

2019世界柔道選手権東京大会の女子52kg級代表選手である志々目愛は、ダイナミックな柔道選手だ。どんなにポイントでリードされても、伝家の宝刀である内股で形勢を逆転する。豪快に一本勝ちする志々目の姿は見ていて気持ちが良い。
そのダイナミックな柔道の基礎は幼少期の稽古によってつくられた。柔道を先にやっていた2人の兄の影響を受けて、志々目は4歳のときから鹿児島県にある柔心館道場に入門。正月以外は毎日、練習に明け暮れていくうちに実力を付けていく。
小学6年生のときには全国小学生学年別柔道大会で3位に入賞し、中学2年、3年のときには全国中学校柔道大会に連続出場を果たす。全国中学校柔道大会では上位入賞こそ逃したが、全国レベルを体感できたことが収穫となる。
中学を卒業してからは宮崎日本大学高校で柔道に取り組んだ。高校時代の志々目を指導した同校のコーチ・三澤寿栄さんは「芯が通っている子でした。人の話を聞くときも背中をピンと伸ばし、まっすぐに相手の顔を見て聞く。彼女はどちらかと言うと大人しくて多くを語るタイプではないのですが、彼女のやることにはみんながついていったのを覚えています。それと、上からも下からもみんなに愛される子でした」と語る。
みんなの先頭に立って練習をする志々目は、順調に実力を伸ばしていく。高校3年生のときに、全日本ジュニア柔道体重別選手権大会で優勝を飾る。そして、帝京大学に進学してからも同大会を勝ち続けて、3連覇を達成したのだ。

志々目の強さが本格化したのは大学4年生となった2015年である。同年の10月から2019年の5月まで(その間に志々目は了徳寺大学の職員となった)、外国人選手を相手に57連勝を達成する。外国人選手に一敗もすることなく、2016年の柔道グランプリ・デュッセルドルフ、アジア柔道選手権大会、2017年のブダペスト世界柔道選手権大会、2018年の柔道グランドスラム・デュッセルドルフ、2019年の柔道グランドスラム・パリなどの国際大会を次々と制覇していったのだ。これにより志々目は「外国人選手に強いから国際大会で勝てる選手」という評価を得た。
しかし、これほどの実績を持ちながらも志々目は女子52kg級のトップ選手として認められていない。なぜかと言えば、国際大会の成績に比べて国内大会の成績がいまひとつだったからである。
例えば、2016年から2019年まで毎年、志々目は全日本選抜柔道体重別選手権大会に出場しているが、優勝したのは2017年の一度きり。また、講道館杯全日本柔道体重別選手権大会に至っては優勝したことがないのだ。

では52kg級のトップがどの選手なのかと言えば、それは阿部詩(日本体育大学)である。現在、飛ぶ鳥を落とす勢いで国内外の大会で好成績を収めている19歳の若手選手だ。しかも、志々目には直接対決で5勝1敗と大きく勝ち越している。
こういった経緯から、「52kg級のトップが阿部でナンバー2が志々目」という見方が定着してしまった。東京五輪(柔道)52kg級の代表枠は、たったひとつ。このままならば、阿部が順当に東京五輪(柔道)代表選手になるだろう。
しかし、志々目にとって下克上のチャンスとなるのが、2019世界柔道選手権東京大会だ。志々目と阿部の2人が52kg級代表として出場する今大会は、どちらがトップ選手なのかを白黒付ける絶好の場なのだ。
阿部と志々目は実力者なだけに、直接対決する可能性が高い。直接対決が実現したら、志々目は絶対に負けるわけにはいかない。
そこで、2人の直接対決について考察していきたい。志々目が左組みなのに対して、阿部は右組みである。志々目は右引手の引きの強さは抜群だが、阿部に敗けた試合では引手が不十分なことが多い。組み手争いをしているうちに、スピードのある阿部に組み際の釣り手を持たれて、そこからの担ぎ技や足技に翻弄されてしまっている。
それなので、志々目にとって大切なのは引手を先につかむこと。そして、左内股一本に絞らず左大内刈、小外刈などの足技も効果的に使うことだ。阿部に対してスピードで負けている分は、一発の威力や技の切れで取り返すしかない。

阿部に一本負けした2018年のバクー世界柔道選手権大会以降、志々目は寝技の強化に取り組んできた。阿部を崩して、寝技に持ちこむことも想定しているのだろう。
もちろん、2019世界柔道選手権東京大会では、阿部だけではなく海外の強豪選手も待ち受けている。
ギリ・コーヘン(イスラエル)、エリカ・ミランダ(ブラジル)、ナタリア・クジュティナ(ロシア)、アマンディーヌ・ブシャール(フランス)、マイリンダ・ケルメンディ(コソボ)、オデッテ・ ジュフリーダ(イタリア)などである。この中で特に警戒する必要があるのはクジュティナ、ブシャール、ケルメンディの3選手。
クジュティナは、2013年のユニバーシアード競技大会で志々目を破っており、相手の懐に潜って繰り出す、肩車には要注意だ。
ブシャールは、2019年の柔道グランプリ・マラケシュ、柔道グランドスラム・バクーなどを優勝している実力者であり、2013年の世界ジュニア選手権団体戦で志々目に勝っている。
ケルメンディは志々目に勝ったことはないものの、2016年のリオデジャネイロ柔道競技(五輪)で金メダルを獲得している。かつて世界の頂点に立ったことがあるだけに、その実力は紛れもなく本物である。

そして、2019世界柔道選手権東京大会で志々目にとって最大の障害となるのは右脚の怪我だ。2019年5月の柔道グランドスラム・バクー決勝で、志々目は棄権するほどの怪我をしている。この怪我は深刻なものだったが、2019世界柔道選手権東京大会に挑むために手術は回避した。つまり、志々目は今大会に選手生命を賭けて出場していると言える。さらに志々目は「(この怪我を)試練だと思っている」と言うように、逆境でも闘志を燃やしているのだ。
脚を怪我しているのに、得意技である内股を繰り出せるのか、柔道ファンは気が気でないだろう。しかし、負傷を抱える志々目がライバルである阿部を破って優勝したら、こんなにドラマチックなことはない。今夏、志々目は選手生命を賭けた大勝負に臨む。
※ 掲載内容は、2019年6月30日までの実績とインタビューからの情報になります。
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