大会直前特集
バクー世界柔道選手権大会代表選手の最終選考会をかねる「平成30年全日本選抜柔道体重別選手権大会」。階級別の見どころについてご紹介します。

※掲載内容は2018年4月時点のものです。
男子の見どころ
男子60kg級

2017年ブダペスト世界選手権
3回戦
永山竜樹 vs B.GANBAT
第一人者である高藤直寿(パーク24)が今回不出場。高藤は、2017年8月のブダペスト世界柔道選手権大会(以下、世界選手権)で優勝、12月の柔道グランドスラム東京2017でも優勝を飾り、今夏に開催されるバクー世界選手権(アゼルバイジャン)の代表入りを早々と確定させている。
今大会の目的は、2枠目の代表候補の座を争うというもの。しかしあくまで代表候補であり、優勝しても代表確定とはならないという前提だ。
優勝候補の筆頭は、連覇を狙う永山竜樹(東海大学4年)で、それに続くのが志々目徹(了徳寺学園職員)。永山は、2017年のブダペスト世界選手権に日本の新エースとして出場したが、不完全燃焼のまま3回戦敗退。世界の壁に阻まれ、苦い思いをしている。
ブダペストでは不発に終わった永山だが、その後は12月の柔道ワールドマスターズ・サンクトペテルブルク、2018年2月の柔道グランドスラム・デュッセルドルフと連続優勝。現時点でIJFワールドランキング1位であり、実力的に世界トップであることは間違いない。スピードのある右背負投、左一本背負投に加え、小内刈や小外刈、さらに右内股も切れる。
柔道ワールドマスターズ・サンクトペテルブルク 2017(男子60kg級)
柔道グランドスラム・デュッセルドルフ 2018(男子60kg級)
2015年には日本の第一人者として世界選手権に出場し、3位に輝いている志々目も、優勝候補として永山に引けを取らない存在。2018年2月の柔道グランドスラム・パリでは2年ぶりに優勝。内容的にもオール一本と素晴らしいものだった。
得意技は切れ味抜群の内股。60s級2枠目の代表切符を勝ち取るには、永山に勝つことは当然だが、その内容も問われる。
世界柔道選手権大会 2015(男子60kg級)
柔道グランドスラム・パリ 2018(男子60kg級)
永山にしても志々目にしても1、2回戦で足元をすくわれるようであればその先はないと言って良いだろう。世界選手権に絡むのはこの2選手だが、その他の選手にとっては、次のチャンスに繋げる大事な戦いとなる。
男子66kg級

2017年講道館杯 決勝戦
丸山城志郎 vs 田川兼三
この階級も、2017年8月のブダペスト世界選手権でチャンピオンに輝いた阿部一二三(日本体育大学3年)が、12月の柔道グランドスラム東京でも優勝を飾り、バクー世界選手権の代表を確定させているため不出場。阿部は3月の柔道グランドスラム・エカテリンブルグでも、圧倒的な強さで優勝を果たしている。
第1シードは2017年11月の講道館杯全日本柔道体重別選手権大会(以下、講道館杯)優勝の丸山城志郎(ミキハウス)。丸山は2017年12月の柔道グランドスラム東京、2018年2月の柔道グランドスラム・パリと連続準優勝。東京では阿部に、パリでは2015年アスタナ世界選手権王者のアン・バウル(韓国)に敗れた。
とは言え、どちらの試合もゴールデンスコア(延長戦)にもつれる接戦で、両選手と互角に渡り合える実力の持ち主と言っても過言ではないだろう。
順当であれば、決勝は第2シードの磯田範仁(国士舘大学職員)との対戦が濃厚。磯田は、2017年の柔道グランドスラム東京、2018年の柔道グランドスラム・パリと銅メダルにとどまったものの、着実に実力を伸ばしてきている選手だ。
丸山、磯田に続く優勝候補として注目されるのは田川兼三(筑波大学4年)。2018年2月の柔道グランドスラム・デュッセルドルフで、IJFワールド柔道ツアー初制覇を果たしている。その実力が確かなものであることをこの大会で証明できるのか、注目したい。
柔道グランドスラム・デュッセルドルフ 2018(男子66kg級)
この階級は、阿部の実力が突出している印象ではあるが、それだけにそのあとに続く選手の存在が大切になる。海老沼匡(パーク24)が73s級に階級変更しており、阿部に続く選手、阿部を脅かすような選手の登場を期待したい。
男子73kg級

2017年ブダペスト世界選手権
3回戦
橋本壮市 vs J.JECMINEK
この階級は、男女14階級の中で最も過酷なトーナメントになることが予想される。
2017年8月のブダペスト世界選手権で悲願の王者に輝いた橋本壮市(パーク24)、2017年11月の講道館杯で2連覇、続く12月の柔道グランドスラム東京を制した立川新(東海大学3年)、2016年リオデジャネイロ五輪(柔道)金メダリスト、2018年2月の柔道グランドスラム・デュッセルドルフで復活優勝を果たした大野将平(旭化成)。そして、リオデジャネイロ五輪(柔道)66s級銅メダリストで、大会後に階級を上げた海老沼匡(パーク24)。
橋本、大野、海老沼の3人が世界選手権優勝の経験を持つのだから、その顔触れは「超豪華」と言っても過言ではないだろう。
世界柔道選手権大会 2017(男子73kg級)
講道館杯全日本柔道体重別選手権大会 2016(男子73kg級)
講道館杯全日本柔道体重別選手権大会 2017(男子73kg級)
柔道グランドスラム東京 2017(男子73kg級)
リオデジャネイロ五輪(柔道) 2016(男子73kg級)
柔道グランドスラム・デュッセルドルフ 2018(男子73kg級)
第1シードの橋本は2017年12月の柔道グランドスラム東京で、国際大会8連勝を立川に阻止されたが、その2週間後の柔道ワールドマスターズ・サンクトペテルブルクでは大会連覇を達成。その確かな実力を見せ付けた。2018年2月に左足を負傷して柔道グランドスラム・デュッセルドルフを欠場しており、復帰戦となる今大会での戦いぶりが注目される。
柔道ワールドマスターズ・サンクトペテルブルク 2017(男子73kg級)
ここ1年、国内で圧倒的な強さを見せている立川が第2シード。まだ20歳ながら組み手の巧さ、強さ、そして受けの強さは別格と言われている。組み負けた相手の反則ポイントだけで勝ってしまうため、技の実力が分かりづらいが、大内刈などの足技を中心に技も切れる。次代のエース候補の戦いぶりも注目ポイントのひとつ。とりわけ海老沼との初戦は必見と言えそうだ。
そして、何と言っても一番の注目選手は大野。柔道グランドスラム・デュッセルドルフは、万全とは言えない状態だったが、それでも圧倒的な優勝。地力の差を見せ付けた。
果たして誰が優勝し、誰が代表の座を手にするのか。1回戦から目が離せない。
男子81kg級

2017年講道館杯 準々決勝
佐々木健志 vs 藤原崇太郎
階級第一人者の永瀬貴規(旭化成)はケガのため欠場。第1シードは、2018年2月の柔道グランドスラム・パリ、3月の柔道グランドスラム・エカテリンブルグで連勝した期待のホープ・藤原崇太郎(日本体育大学2年)が有望だ。
柔道グランドスラム・パリ 2018
(男子81kg級)
柔道グランドスラム・エカテリンブルグ
2018
(男子81kg級)
中学時代から次代のエース候補として注目されていた藤原はここへ来てビックタイトルを連続奪取。順調な成長ぶりを見せている。永瀬不在の81s級の救世主となれるのか、真価が問われる大会と言えそうだ。
藤原にとって一番のヤマとなりそうなのが、初戦、渡邉勇人(了徳寺学園職員)との対戦。渡邉はケガが多く、コンスタントに力を出せないものの、潜在能力は間違いなく階級トップ。時間が長引けば練習量が豊富でスタミナ抜群の藤原優位となりそうだが、渡邉の一発には警戒が必要だ。
第2シードは、2017年11月の講道館杯を制した佐々木健志(筑波大学4年)。その後の国際大会、柔道グランドスラム東京、柔道グランドスラム・パリと入賞できなかったが、2018年3月の柔道グランドスラム・エカテリンブルグでは決勝進出を果たし、藤原に敗れるも銀メダルを獲得。着実に対外国人選手の技術を身に付けてきている。
講道館杯全日本柔道体重別選手権大会 2017(男子81kg級)
佐々木は、初戦で長嶋啓太(日本中央競馬会)、順当であれば準決勝で小原拳哉(パーク24)との対戦となるが、ここで躓くようでは日本代表の座は遠いと言わざるを得ない。ポスト永瀬の登場を、大いに期待したい。
男子90kg級

柔道グランドスラム東京2017
2回戦
長澤憲大 vs P.ZILKA
最注目は、リオデジャネイロ五輪(柔道)金メダリストのベイカー茉秋(日本中央競馬会)。今大会は右肩の手術からの国内復帰戦となる。国際大会は、2018年2月の柔道グランドスラム・デュッセルドルフに出場して準優勝を果たすなど、復調を感じさせるに十分な成績を残した。
リオデジャネイロ五輪(柔道) 2016
(男子90kg級)
柔道グランドスラム・デュッセルドルフ 2018
(男子90kg級)
今回は第3シードで出場。初戦が釘丸太一(センコー)、順当であれば準決勝で、向翔一郎(綜合警備保障:ALSOK)との対戦となる。向は柔道グランドスラム・パリで優勝するなど現在絶好調。打倒・ベイカーに人一倍の闘志を燃やしており、好試合が期待される。
柔道グランドスラム・パリ 2018(男子90kg級)
今大会で第1シードに配されているのは、長澤憲大(パーク24)。ベイカー不在の2017年は、世界選手権の団体メンバーに選出され、日本の金メダルに貢献。
2017年は、エカテリンブルグと東京、2つのグランドスラム大会で優勝している他、12月の柔道ワールドマスターズ・サンクトペテルブルクで銅メダルに輝くなど、安定した実力を見せている。内股の切れもさることながら、組み手と落ち着いた試合運びは特筆すべきものがある。
長澤と初戦で戦う加藤博剛(千葉県警察)は、おそらく誰もが戦いたくない相手だろう。2012年には90sの身体で、体重無差別の全日本柔道選手権大会(以下、全日本選手権)を制しており、33歳の現在も寝技の巧さと強さ、寝技に引き込むプロセスは卓越しており、寝技で観客を魅了できる数少ない選手。
長澤の立ち技か加藤の寝技か、興味深い一戦となりそうだ。この一戦の結果次第で、大きな波乱が起きる可能性も十分に考えられる。
男子100kg級

2017年講道館杯 決勝戦
飯田健太郎 vs 下和田翔平
2017年8月のブダペスト世界選手権で優勝を果たしたウルフ・アロン(了徳寺学園職員)は、2018年1月に左膝を負傷し欠場。そして、リオデジャネイロ五輪(柔道)銅メダリストの羽賀龍之介(旭化成)も2018年2月のグランドスラム・デュッセルドルフで左肩を脱臼して欠場することとなり、主力2人を欠くこととなった。
上位2選手の、今夏のバクー世界選手権の出場がかなり厳しい状況にある中で、期待を集めるのが飯田健太郎(国士舘大学2年)。2017年2月の柔道グランドスラム・パリを制して一気に海外でも注目を集めることとなった。
柔道グランドスラム・パリ 2017(男子100kg級)
2017年11月の講道館杯は優勝したものの、12月の柔道グランドスラム東京は7位、2018年2月の柔道グランドスラム・パリは2回戦敗退と、足踏み状態が続いている。ウルフと羽賀のいない今大会だけに、圧倒的な内容で優勝を果たし、代表の座をゆるぎないものにしたいところだ。
得意の内股、大外刈、払腰に、背負投も加わり、技のバリエーションも豊富になってきた。この大会で大ブレイクのきっかけを掴みたい。
講道館杯全日本柔道体重別選手権大会 2017(男子100kg級)
第2シードは下和田翔平(京葉ガス)。2017年の講道館杯では、飯田に敗れたが準優勝。192cmの身長を活かし、遠い間合いから踏み込む大外刈の威力は抜群だ。初戦のニューフェイス・関根聖隆(筑波大学1年)とどんな勝負を見せるのか、注目だ。
ダークホースは熊代佑輔(綜合警備保障:ALSOK)。2018年全日本選手権の東京都予選では、重量級の上川大樹(京葉ガス)から左右の背負投で「技有」2つを奪うなど、抜群の強さで会場を沸かせた。
2014年の全日本選抜柔道体重別選手権大会(以下、選抜体重別)では羽賀を破って優勝しており、今大会も2回戦の飯田戦次第では、十分に優勝もあり得る。
全日本選抜柔道体重別選手権大会 2014(男子100kg級)
男子100kg超級

2017年全日本選手権 決勝戦
王子谷剛志 vs ウルフアロン
この階級では、2017年全日本選手権王者の王子谷剛志(旭化成)と2016年リオデジャネイロ五輪(柔道)銀メダリストの原沢久喜(日本中央競馬会)の2選手が優勝候補の一・二番手。両選手は、2018年2月の柔道グランドスラム・デュッセルドルフの決勝で対戦し、そのときは組み手争いに終始して技が出ず、「両者反則負け」という不名誉な結果に終わっている。
両選手の直接対決は王子谷の7勝3敗2分だが、現在の実力はほぼ互角と見て良いだろう。原沢は、心配されたオーバートレーニング症候群も快方に向かっており、今年3月中旬の全日本選手権の東京都予選では、7試合オール一本勝ちで優勝している。
今大会、そしてその約3週間後の全日本選手権と、重量級選手にとってはビッグゲームが続くが、バクー世界選手権の代表、そして2年後の東京五輪(柔道)代表を目指す上では、どちらも落とすことはできない重要な大会と言える。
この2強を追うのが、影浦心(日本中央競馬会)、小川雄勢(明治大学4年)らの若手選手。原沢は、全日本選手権の東京都予選では影浦の反則負けで勝利したものの、その前に2連敗を喫しており、苦戦を強いられる相手だろう。
順当であれば、準決勝での対戦となるが、この一戦がターニングポイントとなりそうだ。ただ、影浦の1回戦の相手は、組み手が巧く、破壊力抜群の上川大樹(京葉ガス)なので、まずはこの試合を勝ち上がらないことにはその先もない。
優勝候補の2人が順当に勝ち上がり、雌雄を決するのか、それとも伏兵が2人の対決を阻むことになるのか、要注目だ。