ホームメイト 柔道チャンネル English

柔道の礼法とは

  • Increase Text Size
  • Increase Text Size
  • Decrease Text Size

「礼に始まって礼に終わる」という言葉が柔道の基本精神とされるように、柔道において「礼法」は最も重要な要素のひとつです。様々な技を使って試合に勝つだけではなく、相手に敬意を払う礼の精神が欠かせません。そのため、柔道では礼を表す精神を表現した「礼法」が作法として定められてきました。柔道において礼法はどのような位置づけなのか、立礼・座礼といった礼の種類とその方法、礼を欠いた場合にどうなるのかについて、事例を挙げてご紹介します。

柔道における礼法とは

礼の精神

柔道において最も重要な要素のひとつが礼法です。柔道は、1882年(明治15年)に「嘉納治五郎」(かのうじごろう)によって創始され、道場「講道館」(こうどうかん:東京都文京区)で普及しました。嘉納治五郎は、善いことのために力を尽くす「精力善用」(せいりょくぜんよう)と、他者と協力して共に生きる「自他共栄」(じたきょうえい)を柔道の理念として掲げたのです。

柔道には、技や力の強さを競うスポーツとしての一面と、心の強さ・正しさを重視する一面の両輪で成り立っています。力の強さで試合に勝つことだけを目的にせず、相手を尊重し敬意を払う姿勢が必要なのです。それを作法として表したものが礼法とされています。

柔道の礼の種類(敬礼と拝礼)

敬礼と拝礼

柔道で行われる礼の姿勢は、約30度に頭を下げる「敬礼」と、約45度に頭を下げる「拝礼」に大別。基本的な礼の仕方は敬礼も拝礼も同じですが、体を曲げる角度が変わるため、それにしたがって手の位置などにも違いが生じます。角度や見た目は異なるものの、どちらも相手を尊重する気持ちで行うことが最も重要です。

さらに、敬礼・拝礼どちらも、立った姿勢で行う「立礼」(りつれい)と、正座の姿勢で行う「座礼」(ざれい)に用いられます。

立礼

直立姿勢を取った状態の礼が立礼です。直立姿勢は、両方の踵(かかと)を付けてつま先を開き、膝は軽く伸ばした状態で、目線は正面に向けましょう。両腕は自然に垂らし、手の指は軽く揃えて伸ばして、体につけた状態です。

直立した状態で礼をする方向に正対し、上半身を静かに曲げ、頭は敬礼の場合は約30度、拝礼の場合は約45度に下げます。このとき、敬礼の場合は、両手の指を膝頭から拳ひとつ分程度の位置、拝礼の場合は両手を膝頭の位置まで滑り下ろしましょう。頭を下げたら上体を起こして、もとの姿勢に戻ります。立礼の時間は始めてから終わるまでが約4秒。ひと呼吸程度が目安です。

柔道の試合で立礼を行うタイミングは、場内への入退場時や、試合の開始・終了時。正方形の場内に入る際に一礼し、正方形の場内にある赤と白の目印の場所に立って、試合相手と向かい合って一礼してから試合に入ります。試合後は目印の手前に移動して礼をし、さらに相手の目を見て一礼。場内から出る際にもう一度一礼をします。このように、柔道では多くのタイミングで礼が必要です。

座礼

座礼
座礼

座礼は、正座の状態で行います。

正座をするには、まず直立姿勢を作り、その状態から左足をひと足長半程度引きましょう。体は垂直に保ったまま、左足のあった位置に左膝を下ろし、その際には左足のつま先は立てた状態にします。次に右足も同じように引き、つま先を立てたまま右膝を落としますが、このときの右膝と左膝の間隔は拳2つ分程度。両膝が畳についた状態となったのち、つま先を伸ばします。両足の親指同士が重なった状態を保ち、お尻を下ろしましょう。肩の力を抜いて顎を引き背筋を伸ばした状態で、体をまっすぐに保って座るのがポイントです。両手は太腿(ふともも)の付け根に引き付けて、指先はやや内側に向けます。

正座の姿勢を作ったら、太腿に置いていた手を滑らすように前へ移動させ、畳に手をつき、一礼。両肘は開かずに、両手を両膝から拳2つ分程度前の位置に置きましょう。

敬礼の場合、両手の人差し指の間隔は約6cmで、両手の人差し指で八の字を作るイメージです。頭を下ろす際には、額が両手から約30pの距離が目安となります。

拝礼の場合は、人差し指同士と親指同士が接するように配置。頭を下げるときは両手の甲に接するまで体を曲げ、両肘を付けて敬意を表しましょう。敬礼・拝礼ともに敬意を持って礼をし、終わったら静かに上体を起こしてもとの正座の姿勢に戻ります。正座から立ち上がるときには、両つま先を立て、その後右膝から立ち上がり、左足を揃えて直立姿勢に戻るのが基本。柔道に限らず、武道では左足から座り右足から立ち上がる「左座右起」(さざうき)が基本であり、同じく礼法のひとつとして大切な作法です。

礼を欠くとどうなるか

相手への敬意

柔道の試合において、選手が礼を欠いた事例はいくつかありますが、その代表例として、2016年(平成28年)のリオデジャネイロ五輪での出来事が挙げられます。

柔道男子100kg級の1回戦において、イスラエルの「オル・サソン」選手とエジプトの「イスラム・エルシェハビ」選手が対決。結果は合わせ技1本でオル・サソン選手の勝利でした。試合後、オル・サソン選手は握手を求めましたが、イスラム・エルシェハビ選手はこれを拒否したため、ブーイングを浴びたのです。

エジプトとイスラエルは過去に「中東戦争」等で何度も対立したことに加え、パレスチナ問題によって互いに反感を抱く国民が多かったそう。握手を拒否したイスラム・エルシェハビ選手には、エジプト国内のイスラム勢力等から、オル・サソン選手との試合を棄権するよう圧力がかけられていたと言われています。イスラム・エルシェハビ選手は、「握手をしたくなかった」、「ルール上握手をしなければならないという義務はない」と主張。しかし、IOC(国際オリンピック委員会)は、イスラム・エルシェハビ選手の行動を、五輪の精神とフェアプレーに反する行為として重く受け止め、懲戒処分を下したのです。

このページのTOPへ

注目ワード
ページトップへ