柔道畳の特徴
柔道畳は、投げ技や寝技など、激しい動きや衝撃に耐えうる構造を持つ柔道専用の畳。「国際柔道連盟」のルールでは、試合場に敷かれる柔道畳は安定感があり、ざらざらしておらず、受け身の衝撃を吸収できる性質でなければならないと定められています。材質はウレタンなどの化学繊維で、日本古来の畳とは異なる多重構造で制作された柔道のための畳なのです。
基本的に、柔道畳は表面が塩化ビニル製で、芯材を何層か重ねてできており、家の床に敷く畳とは別のもの。足裏に直接触れる表面の下に貼られているのは、衝撃を吸収する緩衝材、衝撃を分散する芯材や断熱材。現代の柔道場や試合会場で使用されている柔道畳は、国内だけではなく海外のメーカーも制作しています。
もともと、柔道では「琉球畳」(りゅうきゅうたたみ)を使用していました。一般的な畳は、畳の表面である「畳表」(たたみおもて)にイグサ科の「イグサ」を利用しますが、琉球畳は、沖縄原産の植物「七島藺」(しっとうい)を使用。イグサに比べ、七島藺で編まれた畳表は非常に丈夫なのが特徴です。1964年(昭和39年)の東京五輪でも、琉球畳が採用されました。手作業で時間をかけて作られる琉球畳は、現代では大変貴重で価値のある工芸品です。
柔道畳と家庭畳の違い
縁の有無
柔道畳と家庭畳に差はある?
家庭の和室に敷いてあるような一般的な畳と、柔道畳との違いを見ていきましょう。
家庭用畳と言えば、長方形で、長辺には布が縫いつけられているのが一般的です。長辺を覆う、布で織り込まれた部分を畳縁(たたみべり)と呼び、これは柔道畳にはありません。畳の角を保護する他、畳を敷く部屋のアクセントとしても重要な部分です。
家庭で敷くなら、部屋のインテリアや雰囲気に合わせて、柄や色を選ぶのが一般的。昔ながらの端正な和風柄はもちろん、ポップな花柄や迷彩柄、幾何学模様、キャラクターを取り入れた柄もあります。色は日本の伝統色だけではなく、自然な色からパステルカラーまで様々で、素材も和紙や綿、麻のほか、紫外線や汚れに強いポリエステルのような化学繊維など多種多様です。畳縁のない畳には正方形が多く、敷き詰めるとスタイリッシュに見えるため人気があります。
畳表の違い
家庭用畳の畳表は、主にイグサで作られてきました。イグサは、古来、自然に生えている植物でしたが、江戸時代の後期には畳職人がイグサの栽培を行うのが一般的に。イグサの長い茎を乾燥させ、草ゴザを織り上げて畳表を作ったのです。
畳の素材としてイグサが選ばれてきた理由は、イグサの茎の内部がスポンジ状の組織で構成され、温度や湿度の吸収を調節することが可能だから。さらに、嫌な匂いのもとになるアンモニア臭や、接着剤、塗料に含まれて人体に害を及ぼす「ホルムアルデヒド」を吸着して、広がるのを食い止める効果もあります。また、イグサの香り成分「フィトンチッド」は、心を落ち着ける効果もあるのです。
家庭用畳のイグサを使った畳表は、織り方によって種類が変化。一般的には、イグサを緯糸(ぬきいと:織物の幅の方向に通っている糸)、綿や麻の糸を経糸(たていと:織物の縦方向に通っている糸)として畳を作りますが、経糸の本数と糸の素材の違いにより、一目の幅や柄も様々です。経糸に和紙や樹脂素材、化学繊維や特殊加工を用いた糸を使って織り込んだオリジナリティーのある畳表も販売されています。
イグサの畳表を柔道で使用すると、織り目がよれたり切れたりして劣化。武道に使用できるだけの強度を求めた結果、塩化ビニル製が採用され、色もカラフルになりました。柔道畳の畳表は、一見するとイグサの畳に見えるような柄で、滑りにくい構造になっており、その他にも抗菌コートや防塵加工を施しているメーカーもあるのです。
畳の内部も違う
畳の土台部分の構造を「畳床」(たたみどこ)と呼び、その材質や厚さによって、畳の強度や踏んだときの感触が違います。
家庭用畳は、昔から稲わらが畳床に使われてきました。稲わらの畳床は、湿度調整機能があり、湿度が高い環境にある日本の家屋に向いているのです。耐久性と弾力性も高いですが、一方でダニが繁殖しやすい等の欠点もあります。現代では、稲わらだけの畳は少なく、稲わらの間に建材を挟むタイプや、断熱材や畳ボードなどの建材のみで制作された畳床がほとんどです。
一方、柔道畳は衝撃を吸収する緩衝材をメインに使った、特殊な多重構造が特徴。初心者向けの柔道畳は、安全性を第一に考えられてやわらかめに作られています。公式大会向けの柔道畳は、足さばきがスムーズになるように考慮された硬さです。
家庭用畳の上で柔道の練習をすると、畳が傷むだけでなく、ケガの原因にもなりかねません。そのため、自宅で柔道の練習がしたい人向けの柔道畳も販売されています。
柔道畳の敷き方
柔道畳を敷く際に守るルールはありませんが、選手が足を引っかけないように隙間なく敷き詰めることが大切。柔道畳のサイズには統一された決まりがなく、柔道畳はメーカーによって様々です。
どれが良いのか悩んだ場合は、「全日本柔道連盟」の公認を得ている柔道畳を選ぶと安心。小さな子どもも利用する施設向けのやわらかい柔道畳や、中学校などの学校の武道場に敷くタイプ、学校の体育館の床に敷いても衝撃が伝わりにくいタイプ、簡単に出し入れ可能な工夫がされているタイプなどがあります。
柔道畳の敷き方には決まりがないものの、試合場には規定の寸法があるので注意しましょう。試合場は外側と内側に分けられ、競技は内側で実施されます。代表的な規定配下の通りです。
- ・国際柔道連盟の規定
- 試合場内8m四方〜10m四方、畳の大きさは1m×2mないし1m×1m。畳は誤審防止のためエリアが明確に判別できる色を適用
- ・全日本柔道連盟が採用している「講道館柔道試合審判規定」(国際柔道連盟の規定に準じていても可)
- 試合場内9.1m(五間)四方〜10m四方、畳の大きさは182cm×91cmが標準。畳は従来の緑色を使用し境界線を赤色とする