井上康生 男子監督
東京五輪(柔道)
インタビュー

井上康生 男子監督|東京五輪(柔道)インタビュー

井上康生 男子監督|東京五輪(柔道)インタビュー

井上康生 男子監督|東京五輪(柔道)インタビュー

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2021年(令和3年)における東京五輪の柔道で、日本代表選手は階級別と混合団体で合わせて12個のメダルを獲得。その内金メダルは9個にも上ります。この快挙と熱い試合展開に日本中が感動しました。
柔道チャンネルでは、柔道男子日本代表監督・井上康生氏にインタビュー。井上康生氏は高校時代に全日本選手権大会出場した経歴を持つ人物です。さらに、シドニー五輪柔道男子100㎏級では、金メダルを獲得しています。井上康生氏はすべて一本勝ちで勝ち進み、決勝戦でカナダのニコラス・ギル氏と対峙。得意とする内股で一本を取り、念願の優勝を飾りました。内股は鋭く、鮮やかな勝利。100㎏級の選手たちのなかでも、井上康生氏のキレある動きは突出していたと言われています。表彰台では前年に亡くなった最愛の母の遺影を高々と掲げ、見ている人たちを感動させました。
また井上康生氏は、シドニー五輪以外でも、全日本選手権大会や世界選手権大会をはじめとする数々の大会で優勝・好成績を収めています。そして2012年(平成24年)、柔道男子日本代表監督に就任。これまでにない試みと誠実な姿勢で、選手たちを導きました。
インタビューでは、東京五輪(柔道)の振り返りや金メダルを獲得した試合内容などについて語って頂いています。

日本柔道の「総合力」で5階級を制覇「ともに戦うことができて幸せ
でした」

柔道男子日本代表は、東京五輪(柔道)で5つの金メダルを獲得しました。大会全体を振り返り、素晴らしい結果を残せた要因を聞かせて下さい。

まずはコロナ禍の中で、五輪を開催するために尽力して頂いた医療従事者やエッセンシャルワーカーの方々、IOC、JOC、大会組織委員会の関係者をはじめ、我々に戦う場を提供して下さったすべての皆様に、この場をお借りして御礼を申し上げたいと思います。
5つの金メダル獲得という結果を残せたのは、開催自体が危ぶまれる非常に厳しい環境の中でも、選手たちが自主・自律を心がけ、やるべきことを明確にして、しっかりと戦う準備を整えてくれたことに尽きます。そんな選手たちと、ともに戦えたことは私自身の誇りでもありました。そして、強化委員長以下、コーチやスタッフ、選手の所属関係者の方を含め、たくさんの人の協力なくしては決して得られなかった、日本柔道界の「総合力」が生んだ結果だと思っています。この先も厳しい戦いが待っていますが、東京五輪(柔道)で得た財産をしっかりと次につなげ、戦い続けていくことが日本柔道界にとって重要だと感じています。私自身にとっても東京五輪(柔道)はゴールではなく、人生の過程、道の半ばに過ぎないと考えていますので、次なるステージでさらなる力に変換できるように努力をしていかなければと思っています。

開催が1年延期されたことによる影響はありましたか。

なかなか先が見えず、準備を重ねても「三歩進んで二歩下がる」どころか、三歩下がってしまうような状況が続いたので、選手たちは本当に苦しい日々を過ごしたと思います。しかしながら、厳しい環境下でもしっかりと結果を残すことができた要因のひとつは、一人ひとりが自律し、自主的に考え抜いて動き出し、戦える集団であったからだと強く感じています。改めて「己の意識次第で、ものごとは変えられる」ということを、彼らから学ばせてもらいました。また、東京五輪では「調和」が理念のひとつに掲げられていましたが、今回ほどたくさんの方々のサポートなくして五輪は成立しないと感じたことはありませんでした。当たり前のことが当たり前ではない世の中だからこそ、気付けたこと、学べたことがありました。試合後のインタビューで、選手たちが必ず感謝の気持ちを述べていたことにも、そのことが集約されていたと思います。

日本選手団全体に弾みを付けた金メダルラッシュ

男子代表は大会初日から4日連続で金メダルを獲得する快進撃を見せ、日本柔道を勢い付けました。60kg級の高藤直寿選手から、各選手の戦いを振り返って頂けますか。

高藤選手はリオデジャネイロ柔道競技(五輪)で悔しい思いをして、この5年間、東京五輪(柔道)でリベンジを果たすことを常に意識して歩んできました。その強い気持ち、5年間の成果を、しっかりと試合の中で出してくれたと感じています。試合内容を振り返ると、やはり戦術面や駆け引きの部分には天才的なものがあり、他の柔道家にはなかなか真似のできない戦いぶりでした。まさに高藤らしい柔道、高藤にしかできない戦い方で勝ち取った金メダルだったと思いますし、日本柔道に大きな流れを作ってくれました。また、他競技を含めて日本人最初の金メダルでもあったので、日本選手団全体の「火付け役」にもなってくれたのではないかと思います。

66kg級では五輪初出場の阿部一二三選手が、見事に金メダルに輝きました。

阿部選手に関しては非常に安定していました。「強かったな」というのが正直な感想です。あの若さで、しかも初めての五輪の舞台で、あれだけの戦い方ができるのですから、培ってきた努力の成果であることはもちろん、やはり内面的な強さが先天的に備わっているのだろうと感じさせられました。また、この日は妹の阿部詩選手(女子52kg級)も優勝して、「兄妹での同日金メダル獲得」という歴史的快挙が達成されました。男子監督という立場ではなく、一個人として、柔道界に新たなスターが生まれた瞬間だという感覚にもなりました。

大会3日目に登場した73kg級の大野将平選手は、日本柔道史上7人目、男子では4人目となる五輪二連覇を成し遂げました。

結果だけを振り返れば、下馬評通りの優勝だと思います。しかしながら、リオデジャネイロ柔道競技(五輪)で金メダルを獲ってからの道のりが、非常に厳しく、苦しいものだったことは、試合後に見せた涙が物語っていると感じました。「あの大野選手が泣くのか」と誰もが驚くほど感動的なシーンでしたね。周囲から金メダル間違いなしと期待され、大きな重圧の中で厳しい戦いをしっかりと勝ち切ったことで、自分自身が世界最強の柔道家であることを証明してくれたと思います。代表監督として、これほど頼もしい選手と巡り会うことができ、一緒に戦えたことは本当に幸せでした。

指導者として噛みしめた五輪優勝の喜び

81kg級の永瀬貴規選手も、持ち味の粘り強い柔道を発揮して、悲願の金メダルを勝ち取りました。

前日まで3日連続で優勝していましたから、相当なプレッシャーを感じていたと思います。同一競技で4日連続金メダルを獲得するのは五輪史上初のようですし、重圧をはね除けて、本当によく戦ってくれました。私の中で永瀬選手は「これほど長い時間をかけて、努力し続けた人間はいないだろう」と思わせる選手の一人です。リオデジャネイロ柔道競技(五輪)では持っている能力の半分も出せず、その翌年に右膝の怪我で長期離脱を強いられ、復帰後も国内大会の一回戦で敗れることが続きました。本当に苦しい日々の連続だったと思いますが、よく乗り越えてくれたと思います。豪快に相手を投げる場面は少なかったのですが、柔道の奥深さ、面白さを教えてくれるような戦いでしたし、努力は人を裏切らないことを証明する、監督の私にとっても嬉しい金メダルでした。

2000年のシドニー五輪で井上監督が優勝した100kg級では、ウルフ・アロン選手が5大会・21年ぶりに金メダルを奪還しました。

ここ数年間の外国人選手との対戦で、ここまで強いウルフ選手は見たことがないと感じさせる、非常に安定した試合内容だったと思います。一日を通じて、本当に素晴らしい戦いを披露してくれました。特にチョウ・グハム選手(韓国)との決勝で勝負を決めた大内刈は見事でした。足技でもあれだけ相手を投げられるのだと、柔道の面白さを引き出してくれた試合になったのではと感じています。重量級の再建は我々の大きな目標のひとつでしたから、100kg級で金メダリストを誕生させることができて嬉しく思います。
また、個人的な感想になってしまいますが、私が優勝した2000年のシドニー五輪以来、100kg級では21年ぶり2度目の金メダルを教え子が獲得してくれたことに、特別な喜びを感じたことも事実です。全日本柔道選手権大会、世界柔道選手権大会、五輪の「三冠」を勝ち取り、歴史に名を刻む柔道家になった彼のことを心から称えたいと思いますし、さらに記録を伸ばしてくれることを期待しています。

大会終了後、選手たちにはどのような声をかけましたか。

一人ひとりと話をしましたが、戦術うんぬんではなく「よく頑張った」と。一緒に戦えて幸せだった、ありがとう、という感謝やねぎらいの言葉が中心だったと思います。

日本柔道発展のカギは、危機感を持ち続けること

2024年のパリ五輪でも、今回と同等以上の結果を残すためには何が必要だと思いますか。

一人ひとりが危機感を持って努力し続けることだと思います。一瞬でも油断したり、「これくらいで大丈夫だろう」と安易に妥協をしてしまったりすることがあれば、そこには必ず厳しい現実が待ち構えています。皆が必死さを忘れず、考え抜き、協力し合って世界と戦っていくことが、3年後のパリ五輪に向けて非常に重要になっていくと思います。そして、常に世界に視線を向け、良いものを貪欲に取り入れ、変えなければならないものは変え、進化を続けていくことが日本柔道界の発展につながります。厳しい戦いが待っていると思いますが、必ず乗り越えてくれると信じ、期待しています。

最後に、日本柔道を応援してくれるファンの人たち、そしてパリ五輪に向けて動き出した選手たちにメッセージをお願いします。

東京五輪(柔道)では日本柔道界の「総合力」が、大きな成果につながったと思います。スポンサーやファンの皆様の温かい支援と声援は、間違いなく我々に大きな力を与えてくれました。心から感謝を申し上げます。これからの日本柔道界は、今まで大切にしてきた柔道の価値を広める一方で、これまでは示すことや、見つけることができなかった柔道の価値を探究していくことが重要になっていくと考えています。日本柔道が今後も世界の第一戦で戦い、頂点に立ち続ける集団であり続けるためには、柔道を「する」という視点だけではなく、柔道を「見る」、柔道を「支える」という視点が「三位一体」となって、全体を盛り上げていく必要があります。今後も変わらぬサポートをよろしくお願い致します。
2024年にはパリ五輪が開催されます。開幕まで3年を切り、すでに多くの選手が戦闘モードに切り替わっていると思います。柔道は一瞬でも油断すれば、奈落の底にたたき落とされる厳しい勝負の世界。選手一人ひとりが危機感と、自主・自律した集団の一員であるという強烈な意識を持って、これからの柔道界を盛り上げていって下さい。パリ五輪での日本選手の活躍を心から期待し、新たなスターが誕生することを楽しみにしています。

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柔道チャンネル「東京五輪(柔道)」について
柔道に関する情報満載の「柔道チャンネル」。こちらでは、柔道男子日本代表監督・井上康生氏のインタビューがご覧頂けます。井上康生監督はシドニー五輪で金メダルを獲得するなど、数々の大会で優勝した経歴を持つ人物。引退後からは指導者としての道を進み、2012年(平成24年)からは柔道男子日本代表監督に就任しています。インタビューでは、東京五輪(柔道)の振り返りや金メダル選手の試合内容などについて語って頂きました。柔道ファン必見の内容です。
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