大会直前特集
ブダペスト世界柔道選手権大会代表選手の最終選考会をかねる「平成29年全日本選抜柔道体重別選手権大会」。階級別の見どころについてご紹介します。

2017年8月28日(月)から9月3日(日)まで、ハンガリーのブダペストで開催される、世界柔道選手権大会(以下、世界選手権)の最終選考会をかねた全日本選抜体重別選手権大会(以下、選抜体重別)。
2016年のリオデジャネイロ柔道競技(五輪)メダリストの長期休養や、代表を目指して第一線で活躍してきたベテラン選手が引退した階級もあり、今大会は2020年東京柔道競技(五輪)に向けたリスタートの大会と言えるだろう。
※掲載内容は2017年3月時点のものです。
男子の見どころ
男子60kg級

柔道グランドスラム東京2016 決勝
高藤直寿 vs 永山竜樹
60kg級には、リオデジャネイロ柔道競技(五輪)銅メダリストの、階級第一人者・高藤直寿(パーク24)がエントリーしており、高藤の試合内容が最大の注目ポイントとなる。
リオデジャネイロ柔道競技(五輪) 2016(男子60kg級)
高藤の初戦の相手、田中崇晃(筑波大学4年)は3年半前の全日本学生体重別団体優勝大会・決勝の大将戦で敗北を喫し、チーム敗戦の責を負うことになった因縁の相手。実力・実績ともに高藤が上だが、果たして平常心で戦うことができるか。
準決勝で対戦が予想される大島優麿(国士舘大学4年)も、2016年選抜体重別の準決勝で敗れている相手で、寝技の強さに定評のある好選手。「高藤スペシャル」と称されるオリジナル技などを駆使し、変幻自在な柔道を繰り広げる高藤と言えども、厳しい戦いとなりそうだ。
反対側のブロックも接戦が予想される。実績的には2015年アスタナ世界選手権3位、2017年3月の柔道グランドスラム・バクーで優勝を果たした志々目徹(了徳寺学園)が一段上だが、2016年12月の柔道グランドスラム東京で、高藤に一本勝ちして優勝を果たした永山竜樹(東海大学2年)も決して油断できない相手だ。
さらに、2016年柔道グランプリ・ブダペスト優勝の青木大(日本体育大学4年)や、2016年の全日本学生柔道体重別選手権大会(以下、学生体重別)王者の林浩平(国士舘大学4年)など、いずれも伸び盛りの若手選手で、誰が勝ち上がっても不思議ではない。
世界柔道選手権大会 2015(男子60kg級)
柔道グランドスラム・バクー 2017(男子60kg級)
柔道グランドスラム東京 2016(男子60kg級)
柔道グランプリ・ブダペスト 2016(男子60kg級)
全日本学生柔道体重別選手権大会 2016(男子60kg級)
最年長の志々目が25歳、第一人者の高藤が23歳、他は8人中6人が大学生という若いトーナメントだけに、大番狂わせの可能性も十分に考えられる。果たして、リオデジャネイロ柔道競技(五輪)後初の世界選手権代表の座を勝ち取るのはどの選手になるのかに注目だ。
男子66kg級

柔道グランドスラム東京2016 決勝
阿部一二三 vs 橋口祐葵
リオデジャネイロ柔道競技(五輪)銅メダリスト・第一人者の海老沼匡(パーク24)は出場しておらず、今大会はこの階級の新エースを決める戦いと言える。
最注目選手は、阿部一二三(日本体育大学1年)。2016年7月の柔道グランドスラム・チュメニ以降、12月の東京大会、2017年2月のパリ大会と、グランドスラム3連勝中で、IJFワールドランキングも2位(3月20日現在)まで急上昇。今最も波に乗っている選手だ。
阿部の魅力は「一本」を取る豪快な技。背負い投げ、袖釣り込み腰に大腰と、強引と思える体勢からでも豪快に相手を畳に叩き付ける。2016年は選抜体重別で優勝しながらも、実績から代表に選ばれることはなかった。今大会できっちりと連覇を果たし、世界選手権代表の座を獲得できるかに注目が集まる。
全日本選抜柔道体重別選手権大会 2016(男子66kg級)
阿部と対するのは、初戦が堅山将(パーク24)、準決勝は高上智史(旭化成)vs藤阪太郎(国士舘大学4年)の勝者。この中では、やはり実績に勝る高上が有力と見られる。大学の後輩にあたる阿部に勝ち、新旧交代に「待った」をかけられるか。高上にとっても、今後を占う重要な一戦となりそうだ。
反対側のブロックで、実績的に見て最も有力なのは高市賢悟(旭化成)。結果こそ残せていないものの、日本代表として2014年、2015年と2度世界選手権の舞台に立っており、担ぎ技と寝技に定評がある。
袖釣り込み腰、大外刈りの切れ味鋭い橋口祐葵(明治大学4年)に、2015年の講道館杯全日本体重別選手権大会で、阿部を破っている丸山城志郎(ミキハウス)。さらに、2017年2月の柔道グランプリ・デュッセルドルフ準優勝の磯田範仁(国士舘大学3年)も着実に力を付けてきており、誰が決勝に進むのか、まったく予断を許さない。
講道館杯全日本柔道体重別選手権大会 2015(男子66kg級)
柔道グランドスラム・デュッセルドルフ 2017(男子66kg級)
いずれにしてもこの7選手が、階級最年少・阿部の独走を阻むべく大会に臨むと言っても過言ではないだろう。
男子73s級

柔道グランドスラム東京2016 決勝
橋本壮市 vs 土井健史
リオデジャネイロ柔道競技(五輪)金メダリストの大野将平(旭化成)は出場しないが、IJFワールドランキングでは大野の上を行く2位(3月20日現在)の橋本壮市(パーク24)が現在絶好調。
2016年5月の柔道ワールドマスターズ・グアダラハラで世界の強豪を連破して優勝を果たすと、12月の柔道グランドスラム東京、2017年2月の柔道グランドスラム・パリでも優勝。
この階級では大野が別格扱いとなっているが、このところの実績、内容を見る限り、橋本も決して引けを取らない。大野不在のこの大会でしっかりと優勝を果たし、世界選手権代表の座を勝ち取りたいところだ。
橋本は、初戦が福岡克仁(日本大学2年)、準決勝は土井健史(ダイコロ)vs吉田優平(東海大学2年)戦の勝者との戦いとなる。
この中で特に恐いのは土井。2016年の講道館杯全日本柔道体重別選手権大会(以下、講道館杯)3位決定戦で橋本に背負い投げで勝ちを収め、そして補欠からの繰り上げ出場となった12月の柔道グランドスラム東京でも、見事決勝へと進出を果たす。
指導差により勝者は橋本となったものの、手に汗握らせる接戦を演じた。この土井を、好調・橋本が退け決勝進出となるか。
別ブロックは、講道館杯で衝撃的な優勝を飾った19歳の新鋭・立川新(東海大学1年)と、2011年パリ、2014年チェリャビンスク世界選手権王者のベテラン・中矢力(綜合警備保障:ALSOK)の両者が有力。
組み手の巧さ、組み力の強さ、そして常に前に出る攻撃的な柔道に定評のある立川が、講道館杯決勝で攻め勝った先輩・中矢を再び破ることができるのか。対する中矢にとっては、もう一度、世界の頂点に返り咲くための正念場。若手の頭をしっかりと抑えたいところだ。
東京、パリと、2つのグランドスラム大会を制した橋本がすんなりと優勝できるのか、それとも新鋭とベテランに阻止されるのか、注目が集まる。
男子81kg級

柔道グランドスラム東京2016 決勝
永瀬貴規 vs D.RESSEL
この階級はリオデジャネイロ柔道競技(五輪)銅メダリストの永瀬貴規(旭化成)がずば抜けた存在。今回も優勝候補の筆頭と言えるだろう。
リオデジャネイロ柔道競技(五輪) 2016(男子81kg級)
永瀬は、1回戦で長島啓太(日本中央競馬会)、そして準決勝は、春山友紀(自衛隊体育学校)vs丸山剛毅(パーク24)戦の勝者との対戦となる。
春山は今までタイトルにこそあまり恵まれていないものの、常に上位に入る実力者だ。ケガもあり、なかなか結果を出せなかったが、このところ復調の兆しを見せている。
丸山も先の東京都柔道選手権大会では、100kg級のホープ飯田健太郎(国士舘高校3年)を腕挫ぎ十字固めで破り、準決勝でも100kg超級の小川雄勢(明治大学2年)から内股で「技あり」を奪う奮闘を見せ(結果は逆転の一本負け)、3位入賞を果たしている。一発で勝負を決める技の切れは、永瀬と言えども決して油断はできない。
反対側のブロックで、「打倒・永瀬」に燃える旗頭は、2016年の講道館杯を制した渡邉勇人(了徳寺学園)だ。
講道館杯全日本柔道体重別選手権大会 2016(男子81kg級)
渡邉は袖釣り込み腰や足技に関して抜群のセンスを持つものの、ケガが多く、なかなかベストの状態で試合に臨めないのが難点。2017年2月の柔道グランドスラム・パリもケガで回避しており、今回は久々の試合。海外での実績を積めず、世界選手権代表は正直難しいが、内容次第では二つ目の枠を射止めることも可能だろう。
同じブロックに配された全国高等学校柔道選手権大会2連覇の藤原崇太郎(日体荏原高校3年)、学生体重別チャンピオンの佐藤正大(国士舘大学4年)、2017年3月の柔道グランドスラム・バクーで3位入賞を果たした小原拳哉(東海大学4年)らの若手も、この大会に飛躍を期している。
全国高等学校柔道選手権大会 2015(男子81kg級)
全国高等学校柔道選手権大会 2016(男子81kg級)
全日本学生柔道体重別選手権大会 2016(男子81kg級)
柔道グランドスラム・バクー 2017(男子81kg級)
男子90kg級

平成28年選抜体重別 準決勝
ベイカー茉秋 vs 長澤 憲大
第1シードはリオデジャネイロ柔道競技(五輪)金メダリストのベイカー茉秋(東海大学4年)。メディアやイベントに引っ張りだこで、久々の実戦となる今大会で、果たしてどんなパフォーマンスを見せるのか。日本中が固唾を飲んで注目する。
リオデジャネイロ柔道競技(五輪) 2016(男子90kg級)
ベイカーの初戦の相手は、1歳年長の小林悠輔(旭化成)。ジュニア時代に一度、内股で一本負けしている相手ではあるが、ここ数年の対戦成績ではベイカーが圧倒している。とは言え、大内刈り、内股など技の切れは鋭く、ベイカーと言えども油断はできない。
準決勝は、釘丸太一(センコー)と2016年vs学生体重別チャンピオン・向翔一郎(日本大学3年)戦の勝者との対戦。どちらが上がってきても地力的にはベイカーに軍配が上がると予想されるが、どこまで追いつめることができるか。
全日本学生柔道体重別選手権大会 2016(男子90kg級)
第2シードの西山大希(新日鐵住金)は、2016年、リオデジャネイロ柔道競技(五輪)最終選考会となるこの大会でベイカーを破って優勝しながらも、実績で代表落選し、悔しい思いをしている。準優勝した2011年のパリ世界選手権以降大舞台から遠ざかっている西山は、代表返り咲きをかけて戦う。
全日本選抜柔道体重別選手権大会 2016(男子90kg級)
世界柔道選手権大会 2011(男子90kg級)
ダークホースはノーシードの加藤博剛(千葉県警)。平成24年には体重無差別の全日本柔道選手権大会(以下、全日本選手権)で優勝を果たしている寝技師・加藤は、31歳の現在も衰えを見せず、2017年3月上旬の関東選手権大会ではオール一本勝ちで優勝し、全日本選手権出場を決めている。今大会でも台風の目になる可能性は十分にあると言って良いだろう。
加藤が勝ち上がった場合、準決勝で対戦することになる巧者・長澤憲大(パーク24)、あるいはこのところ調子を上げてきている江畑丈夫(国士舘大学4年)にとっても、難敵となることは間違いない。
男子100kg級

柔道グランドスラム東京2016
3位決定戦
飯田健太郎 vs G.MINASKIN
3年前(2014年)のチェリャビンスク世界選手権には代表の派遣が見送られる程低迷していた100kg級だが、このところはだいぶタレントが揃ってきた印象だ。
筆頭はリオデジャネイロ柔道競技(五輪)銅メダリスト、2015年のアスタナ世界選手権では優勝を果たしている羽賀龍之介(旭化成)だ。
リオデジャネイロ柔道競技(五輪) 2016(男子100kg級)
世界柔道選手権大会 2015(男子100kg級)
羽賀の魅力は何と言っても切れ味の鋭い内股。警戒されていてもなお内股を狙い、そして決める。2017年1月下旬に負った左足指骨折の回復具合が気になるところだが、若手の台頭も著しくなっているだけに、しっかりと力の差を見せておきたいところだ。
羽賀の地位を脅かす程、伸長著しいのがウルフ・アロン(東海大学3年)と飯田健太郎(国士舘高校3年)の2人。
ウルフは昨年のこの大会で優勝している他、2016年2月の柔道グランドスラム・パリ、5月の柔道グランドスラム・バクーでは3位入賞、2017年2月の柔道グランプリ・デュッセルドルフでも準優勝しており、着実に実力を付けている。
全日本選抜柔道体重別選手権大会 2016(男子100kg級)
柔道グランドスラム・パリ 2016(男子100kg級)
柔道グランドスラム・バクー 2016(男子100kg級)
柔道グランドスラム・デュッセルドルフ 2017(男子100kg級)
「超高校級」と注目される飯田は、2016年12月の柔道グランドスラム東京で3位、そして2017年2月の柔道グランドスラム・パリでは並み居る強豪を連破して優勝。シニアでも世界レベルであることを証明して見せた。
柔道グランドスラム東京 2016(男子100kg級)
柔道グランドスラム・パリ 2017(男子100kg級)
順当であれば、ウルフが安達裕助(日本大学4年)、飯田が谷井大輝(新日鐵住金)を破り、準決勝でウルフと飯田が激突。勝者が羽賀への挑戦権を得ることになる。2016年11月の講道館杯決勝ではウルフが内股「技あり」で飯田を破っているが、果たしてどんな対戦となるのか。
講道館杯全日本柔道体重別選手権大会 2016(男子100kg級)
羽賀、ウルフ、そして飯田。それぞれがどのような内容で、どう勝ち上がるのか。今後を占う意味でも重要な大会となりそうだ。
男子100kg超級

平成28年選抜体重別 決勝
原沢久喜 vs 七戸龍
100kg超級の選手にとって、この選抜体重別は、4週間後に控えた全日本選手権と合わせて、過酷な正念場の大会となる。この大会で優勝し、その勢いを全日本選手権に繋げたいというのが、選手の思惑と言って良いだろう。
優勝候補の筆頭はリオデジャネイロ柔道競技(五輪)銀メダリストの原沢久喜(日本中央競馬会)。そして、それを猛追するのが2014年、2016年全日本選手権王者の王子谷剛志(旭化成)、2015年アスタナ世界選手権2位の七戸龍(九州電力)、そして2016年の全日本選手権2位の上川大樹(京葉ガス)だ。
現在の重量級四天王とも言えるこの4選手が、順当に勝ち上がり、準決勝、決勝で相見えることになるのか。それとも、下剋上を狙う若手、影浦心(東海大学3年)、小川雄勢(明治大学2年)らが、四強の一角を打ち破るのか。
影浦は2月の柔道グランプリ・デュッセルドルフでは原沢を破って優勝しており、今大会は真価が問われる大会。日本屈指の破壊力を持つ上川の圧力に耐え、得意の背負い投げで活路を見い出したい。
柔道グランドスラム・デュッセルドルフ 2017(男子100kg超級)
学生体重別2連覇の小川は、先日の東京都柔道選手権大会でも優勝を成し遂げ、着実に地力を付けてきている。初戦で対戦する第一人者・原沢をどこまで追い込むことができるのか。2020年の東京柔道競技(五輪)に向け、ターニングポイントとなる可能性もある対戦だ。
全日本学生柔道体重別選手権大会 2015(男子100kg超級)
全日本学生柔道体重別選手権大会 2016(男子100kg超級)
順当であれば、準決勝は原沢vs上川、王子谷vs七戸。そして、その勝者が決勝で顔を合わせることになる。代表争い最終決戦の第一ラウンドは、壮絶な戦いとなりそうだ。