「西山将士」著名な柔道選手インタビュー

  

西山将士

ロンドンオリンピックにて銅メダルを獲得した西山将士選手。オリンピックに出場が決定するまでの心境や、オリンピックが終わった今の心境についてお話を伺いました。

これで終わりじゃない

これで終わりじゃない

オリンピックは誰もが立てるわけではない特別な舞台。

でも、そこで負けた悔しさは他の大会と同じで、「やっぱりチャンピオンしか喜べないのだ」ということをオリンピックという最高峰の大会で改めて感じさせられました。

本番までにやってきたことに対しては自信を持っていましたし、練習の段階から自分のリズムを作って、万全の状態で大会に臨むことができました。

それだけに、銅メダルという結果に対しては悔しさでいっぱいです。

帰国したあともしばらくは、負けた試合のことをふと思い出してしまうことがあります。

ただ、試合があった8月1日時点の実力では、銅メダルが身の丈だったのだと今は思っています。

金メダルを獲れていれば、また感覚も違っていたのかもしれませんが、自分にとってロンドンオリンピックは、負けたときの悔しさをさらに思い出させてくれた大会。

27歳ということもあり、大会前は「これが最後のチャンスだ」と考えていたのですが、負けてしまったことで「もっと強くなれる」、「これで終わりじゃない。まだまだ勝負の世界にいたい」という気持ちがあることに気付かせてくれる大会となりました。

自分が昔から持っている目標は、オリンピックであれ世界柔道選手権大会であれ世界チャンピオンになること。オリンピックを経験して「絶対に世界チャンピオンになってやる」という気持ちがさらに強くなり、今ではやる気もみなぎっています。

「無欲」で手にした出場権

「無欲」で手にした出場権

オリンピックに出るという目標は、社会人になった頃から持っていましたが、練習を続けていくうちに、それが本当に難しいことだと気付きました。

実際、昨年に初めて世界大会の代表に選ばれるまでは、「ロンドンオリンピックの代表は厳しいから、まずは2年後の世界柔道選手権大会を目指すべきかもしれない」と考えていました。

そんなときに先生から「まだ誰がオリンピック代表に選ばれるのか決まっていないのだから、あれこれ考えず、できることからひとつひとつやろう。一生懸命練習に取り組み、それでも代表になれなければ仕方がないじゃないか」と言葉を掛けて頂いたことが、代表に選ばれる転機となりました。

オリンピック代表は、自分自身でもギリギリのところでたぐり寄せた感じでしたので、きっと周りの人は「西山は厳しいだろう」と思っていたはずです。

それでも先生のアドバイスでオリンピックを意識し過ぎることもなく、練習でも体がよく動くようになり、試合でも実力を発揮できるようになりました。

最終選考の大会が近づくにつれ、「優勝すればオリンピックに行ける」と余計なことを考えてしまいました。大会前夜は眠れず「弱い自分」が出ましたが、良い意味で無欲になり、気持ちで負けないよう自分を信じて試合に臨むことで、オリンピックに出場することができたのではないかと思います。

オンとオフの切り替え

オンとオフの切り替え

本番に向けた調整では技術力というより、精神力を高めること、心を鍛えることを心掛けました。

柔道は周囲からの期待も大きいですし、色々な情報も入ってきます。

また、周りの選手の練習を見ていると、自分にあった練習量以上のことをやらなければとか、普段は行なわないトレーニングをしなければと、自分を見失いがちになります。

しかし、そこは上手くバランスを取りながら、「自分は自分なのだから」という考えで、個を強く持って調整していました。

それから、練習とそれ以外の時間にメリハリを付けることにも意識しました。

大きな大会に向けて練習を積み重ねていくと、どうしても「絶対に金メダルを獲りたい」という気持ちになるわけですが、その思いが強くなり過ぎると頭の中が柔道ばかりになってしまい、「自分は何をしているんだろう?」と練習でも心に迷いが生じ集中することができません。

そうならないように、自分は特に精神面の充実も大事だと思って、やるときはやる、休むところはしっかりと休もうと、自分の中でこだわって本番を迎えました。

「弱い自分」を乗り越えて

「弱い自分」を乗り越えて

自分は趣味でロードバイクを楽しんでいるのですが、オリンピックに向けたトレーニングの一環として自転車のヒルクライムも採り入れました。

これは自分なりのメリハリのひとつで、普段とは違ったリズムを練習に加えることで、充実した練習を重ねることができました。

やはり、柔道ばかりだと練習のアイデアも思い浮かばなくなってしまいますからね。

こうした調整を続けたことで、本番までは、少なくとも「弱い自分」は超えられたのかなと感じていました。

ですが、オリンピックの結果は銅メダルでしたので、結果として、まだ「弱い自分」を超え切れていなかったのだと思っています。

「強い自分」と「弱い自分」は、練習でも試合でも出ます。試合への意気込みや、どれだけ練習するのか、試合中に攻め続けられるのかどうかも、すべては自分の気持ちが決めることで、これからも今の自分を超えていかなければなりません。

そういった点においては、ロンドンオリンピックで改めて「弱い自分」を発見でき、その自分と勝負していこうと気付けたのでとても良い経験になりました。

自分は自分だから

自分は自分だから

どの試合でも戦う前は緊張しますが、ロンドンオリンピックの1回戦はやはり特別な緊張感がありました。

会場の雰囲気は他の国際大会と変わらず、まったく気にならなかったのですが、やはり「オリンピックは特別な大会」と自分の中で決め付けてしまっていた部分があったのか、特に序盤は変な力が入ってしまいました。

それでも、「いつも通り、ひとつひとつ」と心の中で自分に言いきかせて、持ち味である足技でリズムを作り、粘り強い柔道で勝つことができました。

試合後は「優勝まであと4つ」という考えもよぎりましたが、すぐに「ひとつひとつ」と言いきかせ、自分の世界を作り次の試合に備えました。

1回戦に限らず、ロンドンオリンピックではどの試合も自分の精神面との戦いでもありました。

そのこだわりは、調整の段階から試合中まで、変わらず持ち続けることができたと思います。

男子柔道は金メダルこそありませんでしたが、初日から3日間メダルを獲り続けていました。

ですが、自分の試合が行なわれる前日の81kg級でメダル獲得が途絶えてしまいました。

よく「日本チームとして、流れを引き戻そうという意識はあったか?」と聞かれるのですが、正直、そういう意識はまったくなく「自分は自分。周りのことは関係ない」という思いでした。

自分の前に戦った選手全員が金メダルを獲っているから「西山も獲れる」というのは違うと思いますし、全員がメダルを獲れなかったから「西山に頑張ってくれ」というのも違うと思うのです。

誰に何を言われようと自分は自分。自分の力をしっかり出して試合に勝つことが、日本代表の力になると信じていたので、周りが勝っても負けても関係ないと思って試合に臨みました。

取り消された大外刈り一本

取り消された大外刈り一本

2回戦の対戦相手は直前の大会で1本勝ちしていた選手でしたが、特に油断することなく戦えました。

ひとつ目の有効が取り消されたときも動揺はなく、「次だ次だ」と攻め続けたことで有効を取り直して勝つことができました。

ロンドンオリンピックでは審判の判定が問題になりました。最近は柔道大会毎にルールが変更になり、審判のジャッジも変わってきます。ですが、選手としては試合中のジャッジに対して不服を感じても仕方がありません。自分達にそれを覆すことはできませんからね。

自分自身の技術や精神はもちろんですが、ジャッジに左右されない強さを身に付けなければいけないということも、ロンドンオリンピックを終えて感じたことのひとつです。

ただ、準々決勝で一本の判定が取り消されたときには、正直、「あぁ、取り消されてしまったか」と、一瞬ですが、動揺してしまう自分がいました。

少ないチャンスの中で決めた技でしたし、主審が1本と手を上げたあとでしたので。

ただ、残り時間も少なかったですし、すぐに「次だ次だ」と気持ちを切り替え、チャンスを作るしかないと攻めていったのですが・・・残念ながら勝利に届くことができませんでした。

敗因は、先に有効を取られて相手のペースになってしまったこと。

最初にもらった技は相手が巧かったのですが、2回目にもらった技は自分の焦りが原因でした。

負けが決まってしまったあとは、「オリンピックが終わってしまった・・・もう金メダルは獲れないのか」と、自分でもよく分からない時間がありました。とても敗者復活戦のことを考える気持ちにはなれませんでした。

井上康生コーチからの言葉

井上康生コーチからの言葉

敗者復活戦に向けての気持ちの切り替えは、本当に難しかったです。負けたあとは体がズシリと重くなり、「本当にここから試合をするのか?」というような感じでした。

それでも試合は待ってくれませんし、柔道家として試合を投げるわけにはいきません。

井上康生コーチからは、アテネオリンピックの敗者復活戦で負けたときの話をして頂きました。

「俺はあのときに金メダルを獲れなかったけれど、銅メダル獲得に気持ちが向かっていけなかったことは今でも後悔している。これはお前に課された困難なのだから、絶対に乗り越えなければだめだ」と。

それでようやく、目の前の試合のことだけを考えようとすることができましたが、完全に気持ちを敗者復活戦に向けることはできていなかったと思います。

試合場で待っているときも、「もう金メダルは獲れないのに試合をしなければならないのか」という気持ちと、「それでもこの状況を打ち破らなければダメだ」という気持ちが入り交じっていて。

そこに「弱い自分」がいました。

精神力で掴んだ銅メダル

精神力で掴んだ銅メダル

試合中は「必死にもがいている」という感じでした。準々決勝までは、アイデアが浮かび体も自然に動いていたのですが、今度は攻めなければいけないのに体は重い。

相手を倒すためのアイデアが浮かばないけれど、何とかしなければと、精神力が体を動かしていました。

とにかく、審判が「終わり」と言うまで動き回ってやるという気持ちでしたし、延長に入ってからも勝ち負けを意識しなかったことで、攻めの姿勢が出せたのだと思います。

本当に、目の前にいる相手を倒さなければ今の状況は終わらない、という思いだけだったので、敗者復活戦の方が、純粋な気持ちだけで戦えていたかもしれません。

ただ、勝った瞬間も「とりあえず一試合終わったな」という感じでした。「あとひとつで銅メダルだ」、「もう一試合できる」という気持ちにはなれませんでした。

やはり準々決勝で負けてしまったショックが大きかったのだと思います。

3位決定戦の畳に上がるときも、メダルのことは考えず、本当にシンプルに「この相手をどうにか倒さなければいけない」という思いだけでした。

この試合を一生懸命動き回って、今日を終わろうという気持ちだけ。正直、心も体も限界までへばっていましたので、自分が昔から持っていた「勝負根性」が体を動かしてくれたのかもしれません。

今振り返ってもめちゃくちゃな試合でしたが、延長・旗判定の末に勝つことができました。勝利が分かったときは少しだけホッとしましたが、やはり金メダルが獲れなかった悔しさの方が大きかったですね。

試合の直後、篠原信一監督に「金メダル獲れませんでした」と報告に行くと、「準々決勝の判定など、色々あったけれどよく頑張った」と声を掛けて頂きました。

金メダル以外はダメでいい

金メダル以外はダメでいい

表彰式になっても嬉しさは感じられませんでした。

「終わってしまったのだな」と、ただそれだけでした。

金メダルを獲った選手がメダルをかじるポーズをしながら、自分に笑いかけてくるのを見るのも悔しかったです。悔しさを押し殺して一緒に笑っていましたが、本当に悔しい表彰式でしたね。

なにより、メダルの色やメダルを獲ることそのものではなく、オリンピックという各国の猛者が集まる最高峰の大会で、チャンピオンになりたかったと強く思いました。

現地まで応援に来てくれた両親と兄には、表彰式のあとで「銅メダルだったけど、何とかメダルを獲れたよ」と報告しました。

家族は「よく頑張った。本当に嬉しいよ」と言ってくれましたが、準々決勝を負けてしまったのに喜んでくれたことに、少し拍子抜けな感じはありましたね。

日本に帰ってからもよく「おめでとう」と声を掛けて頂くのですが、自分は本当にそれで良いのだろうかと思っています。

日本柔道としても銅メダルは良い結果ではありませんし、個人的にも絶対に良くない結果だと思っています。

自分は、他の競技なら銀メダルや銅メダルでも「よくやった」で良いと思いますが、柔道は「金メダル以外はダメ」なのです。

自分が金メダルを獲れなかっただけに、なおさらそう思います。

自分の真価はまだ先にある

自分の真価はまだ先にある

自分にとってロンドンオリンピックは、負けたときの悔しさを思い出させてくれた大会でした。

オリンピックの前は「これでオリンピックは終わり」という気持ちでしたが、貴重な経験をさせてもらった今は、「もっと強くなりたい」と純粋に思っています。ロンドンオリンピックでは対戦することができませんでしたが、金メダル候補だったイリアス・イリアディス選手(ギリシア)とも戦いたかったですし、判定やルールなどに左右されない強さを身に付けられるよう、トレーニング法を変え、柔道スタイルを変え、自分の殻を破って行きたい。

まだまだ自分との勝負を続けていこうと思っています。

オリンピックでは本当にたくさんの方に応援をして頂き、ありがとうございました。

多くの方から「おめでとう」という言葉を掛けて頂きましたが、自分の本当の価値はこれから先にあると信じています。

絶対に強くなりますので、これからも日本柔道と西山を応援して下さい。

インタビュー:2012年12月

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