著名な柔道家インタビュー

  

川口孝夫2/2

1972年のミュンヘン五輪(柔道)で金メダルを獲得し、現在は全日本柔道連盟の審判委員会委員長を務める川口孝夫氏。
国際柔道連盟審判委員、アジア柔道連盟審判理事も兼務し、柔道の国際的発展に貢献する傍ら、自身の道場で後進の育成にあたっている川口氏が柔道人生を振り返り、日本柔道の未来像を語ります。

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IJFの審判委員としても活躍

IJFの審判委員としても活躍

指導者として後輩を指導する一方、IJF(国際柔道連盟)公認のインターナショナル審判員のライセンスも取得し、国際大会の審判としての活動を始めようとしていた頃、国際柔道連盟の審判委員(アジア審判理事)のオファーを頂きました。

ただ、その前年である1997年に父が他界し、川口道場を継ぐ時期と重なってしまったこともあり、実は2度程依頼を断っているんです。それでも、上村春樹さん(現・講道館館長)に説得され、オファーを引き受けることを決意しました。

就任当時、IJFの理事長を務めていた日系カナダ人のコジマさんには、とても手厚いサポートをして頂きました。

日本人のIJF審判委員として難しさを感じるのは、やはり柔道に対する日本と世界の考え方を調整することです。当然、競技者としての経験がある自分こそが、最も柔道をよく理解しているという自負心もありますし、本当の柔道家として現場で培ってきたことを伝えよう、という気持ちを持って職務にあたっています。

ただ、現在のように競技ルールが頻繁に変更されるようになると、組織として柔道界を動かしていくためには、細かな点も含めすべてに反対する訳にもいかない。その辺りの難しさは、日々感じています。

未来の柔道界への提案

未来の柔道界への提案

先日、フランスのクラブチームの指導者たちと交流する機会があったのですが、大人でも初段としてチーム練習を楽しんでいることを聞き、フランスに柔道家の数が多い理由がなんとなく分かった気がしました。

かたや日本の道場、特に私の周囲では「あの子は全国大会で何位だ」などと、どうしても成績の良い選手にばかり脚光が当たってしまっている気がします。柔道の競技人口減少が懸念される中、もう少し考えを改めていく必要があるのではないでしょうか。

例えば、親子で一緒に柔道を楽しんだり、いくつになってからでも柔道を始められたりなど、競技人口を増やすための環境整備も大切。道場だって、勝ち負けや投げた投げられたで終わるのではなく、ときには柔道とは違う議論を交わす場であっても良い。

フランスのクラブチームの施設には、コーヒーが飲めるサロンのような場所もあると聞きますし、良い部分は参考にして取り入れていく必要があるかもしれません。

実は川口道場にも「ママさん柔道」という、柔道に興味を持つ女性が集まったグループがあるんです。私が直接指導することはないのですが、皆で昇段試験を受けたり、オリジナルユニフォームを作ったり、川口道場チームとして大会に出場するなどをして楽しんでいるようです。

こうした裾野の広がりが、柔道界の発展や柔道人口の増加につながってくれれば嬉しいですね。

子どもたちへのメッセージ

子どもたちへのメッセージ

年齢を重ねるにつれて、指導内容や子どもたちと向き合う姿勢は、少しずつ変わってきています。以前は小学校高学年から中学生の子どもたちを、なんとか強くしたいという気持ちがありましたが、今は、小さな子どもたちにも柔道を楽しんでもらいたい。

もちろん柔道は格闘技ですから、体の大きな子や体力がある子と、そうではない子とで差が出てしまうのは仕方がないですが、体の小さな子や体力が弱い子にも柔道を楽しませてあげたい。

全国大会で成績を残し脚光を浴びる子の後ろには、それぞれのステップで頑張っている子どもたちが大勢いて、その子たちが柔道への興味を持ち続けて、競技を続けていってほしい。そんな思いが年々高まっています。

例えば10人の子どもたちで試合をすれば、1位になる子も10位になってしまう子もいる訳です。当然誰もが1位を目指して頑張るのですが、大切なのは結果ではなく、どれだけ一生懸命に取り組んだかということ。

私は「競技を楽しむ」という表現が好きではありませんが、たとえ試合で1位になれなくても、その過程が充実していれば柔道を楽しいと感じられるし、それぞれの成長にもつながるはずだと、指導者としていつも思っています。

「楽しい」という表現は、競技と真摯に向き合った人が発してこそ心に響くもの。川口道場の館長として、子どもたちが「柔道って本当に楽しい」という気持ちを、自然に感じてくれるような道場や、チーム、柔道家を育てたいと思います。

インタビュー:2016年3月

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