著名な柔道家インタビュー

藤猪省太 天理大教授・全日本柔道連盟審判委員会副委員長インタビューその3

最近は北京オリンピックをはじめ、世界レベルの大会で日本を代表する国際審判員として活躍する藤猪省太氏。

現役時代は対外国人無敗。中量級(1979年は78kg級)で世界選手権4連覇の偉業を達成している藤猪氏だが、その真骨頂は、無差別の全日本選手権での活躍である。藤猪氏に現役時代の思い出、そして国際審判員として今思うことを伺いました。

藤猪省太氏

足に根が生えていた

大学に入ってびっくりしたんは、大学生が強かったこと。天理高校に大学の先輩がよう練習に来とったんです。トップレベルの14〜15人は来なかったけど、15番以下くらいの先輩たちが。でも、負けたことなかったんですよ。だから「大学生って弱いな」って思っていた、入る前はね。でも、大学に入ったら、3、4年生はみんな強いんですよ、弱い人でも。まるで足に根が生えたみたいに飛ばない。練習と試合は違うんですよ。やっぱり強いなぁ思って。試合はパーンと投げて終わりやけど、練習はそうはいかないでしょう。だから、試合が下手だけやったんやなぁと思った。3、4年生は夏過ぎるまでよう投げれんかったですね。

背負投が完成

自分自身、自信を持って全日本選手権に出られる可能性が見えてきたんは、大学3年生ぐらいですかね。3年の終わりに、背負投が完全にシニアとして出来上がったというか、こう組めたら無差別級の日本チャンピオンであろうが誰でも投げられる、そう思えるようになった。
背負投を身に付けるためにやった練習は、打ち込みとチューブ引き。チューブは高校1年生のときからずっと、片腕で4本引っ張っていたせいで下半身が強くなった。4本のチューブは、腕だけでは引っ張れませんから、足腰で引っ張る。下半身使って、ガーン、ガーンとね。それで強うなったと思うんです。足が太くなって、受けも強くなった。だから、大きいやつも一発で投げられたんですよ。練習のときは、あまり背負投は掛けなかったです、足技ばっかり。大内とか大外とか内股やとか、遊びで払腰やとかね。調子の悪いときは背負と体落をやったり。よしちょっと掛けて試したろう思うときに掛けとっただけで、ほとんど練習では使わなかったです。
で、どうしたかというと、練習終わって1時間も2時間も打ち込みしたり、チューブ引っ張ったりして。もししょっちゅう背負投を掛けとったら、あかんかったでしょうね。潰れとったと思います。体が固くなるしね。その練習がなんでよかったか言うたら、背負投を掛けることばかりやらんと、背負投を掛けるまでの動きとかいろんなものを、組み立てることができた、知らんうちに。
もし背負投を中心に練習をしとったら、その何十万通りの組み立てができなかったと思いますよ。背負投にもっていくまでの過程を、あらゆる方角から見極めようと思ったら、いろんな技を掛けていろんな動きをしとったほうがいいでしょう。知らんうちに本能的に、他の技をいっぱいやっとったことが、僕の役に立った。それで、どこからでも背負投を掛けられるようになったんですよ。普段の練習で背負投をやり過ぎたらいかん、しょっちゅう背負投を掛けるもんじゃないと、なんでかそう思っていましたね。
それでも試合では背負投。本当に強いやつを投げるのは背負しかないですからね。僕の柔道が、練習と試合とで違うから、みんな驚いとったですよ。練習で背負投なんか掛けたことないのにってみんな言うとった。東京の合宿行ったら、1回も掛けへんわね。見せへん。見せたらやられるからね。上村春樹に見せてえらい目に遭うたことあるから。学生時代(全日本学生決勝)にあいつにやられたのも、そうやったもんね。あとで聞いて失敗したなと思った。「あいつ」なんて言ったらあかんわな、上村館長をね(笑)。

上村館長との全日本選手権の激闘

藤猪省太氏昭和48年の全日本選手権準決勝、僕はあの試合は一番やっぱり思い出があるな、負けたけどね。必死になっていったな。上村が先に背負投を掛けおったんですよ。でも、技が遅いんですよ。それで後ろから首絞めたろうと思って乗っていったんですよ、瞬間的に。そこを巻かれてね。もっていかれて「技あり」って言われて。それからもういろんな技掛けたな、必死になってね。僕にとって優勝できる最初で最後のチャンスだと思ってね。いい思い出ですね、今考えたら。
全日本選手権は自分にとって最大の目標でした。それは、あの頃が無差別の時代だったからやね。世界チャンピオンになろうが、オリンピックチャンピオンになろうが・・・僕はオリンピックには行けなかったけど・・・無差別で、まず全日本選手権に出ないと一人前じゃなかったからね、あの頃は。

柔道は社交ダンスと一緒

藤猪省太氏と山下泰裕氏
山下泰裕氏と
ヨーロッパ遠征のひと時
稽古では技の練習より崩す練習ばっかり。大きい相手に組み負けないようにするために、とにかく前に出たんやね。相撲の立ち合いと一緒。前に出て、押し倒すとか、捻るとか。がっと前に出る。前に出ていって、相手が出てくるのを待つ。
もうひとつは、社交ダンスと一緒で、自分で動いたらあかん。自分で動くと、軽くなってしまうから、相手の動きについていくこと。ついていって、止まったところで投げる。止まったら力が抜けるからね。その瞬間に掛ける。山下(泰裕)にしても、超一流はみんなそう。僕から言わしたら、自分で動くやつは二流。ちょっとは動かないかんけど、自分でやたらと動くやつおるでしょう。動いたら体が軽くなるからね、動きすぎたらあかん。そのためには、まずはしっかりと組む。組んで継ぎ足で追うていかなかったらあかんね。それが歩み足やったら引っ張られて弱いから、継ぎ足でついていく。社交ダンスは相手についていって振り回されて、振ったり、持ち上げたり、自分で回ったりするでしょう。柔道は社交ダンスと一緒ですよ。それができたら、一応一流やろうな。

世界4連覇。外国人に無敗通す

藤猪省太氏 世界選手権大会で全階級優勝を果たした
メンバーと(1973年世界選手権大会/スイス)
世界選手権では4連覇していますけど、最後のパリ(1979年)のときには、ちょっと考えました。なんでか言うたら、僕は外国人に負けるのは絶対にイヤやってね、プライドが許さなかったから。絶対にどんなことがあっても負けんと現役を終ろうと思っとったからね。
あのときに80kg(中量級)だったら、国内でも負けておったかもしれんし、出ても勝てたかどうかわからへんわね。でも体重区分が変わって、78kg級というのができて、それやったら、総合的な経験で絶対いけると思ったから、やっただけであってね。もしあの階級がなかったらやってない。日本代表になれるかどうかもわからへんし、なったところで金メダルのパーセンテージが80〜90割ったら、やる価値ないしね。オリンピック行ったって、世界に行ったって、銀ではあかんからね。金以外はないから。はっきり言って。出るぐらいでは喜べへん。金が獲れへんようやったら、出る必要あらへんしね。

藤猪省太氏 世界選手権大会で初制覇した藤猪省太氏
(1971年世界選手権大会/西ドイツ)
オリンピックに出てメダル獲るのが目標の人もおるし。例えば、北京オリンピックで、陸上のリレーでメダル獲ったやんか。あれなんか、金を獲る以上に素晴らしいと思うね。だから、人によって違うわけやけど、僕の場合は、金以外はないわけやから。獲れないな、ちょっと危ないな、と思ったらやめるべきやしね。そういう価値観の問題なんで。

勝つために、「審判ルール」を勉強してほしい

藤猪省太氏
アテネオリンピックで
審判を務める藤猪氏
日本では、国際大会の審判のレベルが低いと言う人もいますけど、それは日本の考えであって、感覚が違うだけだと思ったほうがええと思うんです。
僕が国際(A級)審判員としてオリンピックや世界選手権の審判をやっていて思うのは、今は、システムでもなんでも、国際のほうがちょっと進んでいるということ。裁判するときでも、日本の国内で罪を犯したら日本の国内の法律でやらないかんけど、外国やったらその国の法律でやらないかんのと一緒。柔道の国際大会は、国際法でやっているんやから、それを日本の感覚でやってもしょうがないということ。それをまず知っておかないかんのとちゃうかなと思う。だから、そういう勉強も日本の選手はしなかったらあかん。
僕の立場としては、日本人だから、日本柔道の感覚をできるだけ審判員に見せないかんという義務はあるけども、逆に、強化の一環としては、国際がこういう感覚で動いているという状況を知っておかないかん。日本で生まれた競技やとか、日本柔道が正しいとか言ってられへん。選手がどこで試合をやっているかというと、今現在の国際法の解釈でやってんのやからね。審判側もいろいろな経験を通して反省したり、見る方角とか、見る位置とかいろいろなことを勉強しているわけだし、日本の強化スタッフ(関連リンクももっと勉強しなきゃいかん。
僕は強化委員会(関連リンクの一員として、強化の畑から審判に行ったから余計にそう思う。強化の一環として、サンボとか、レスリングとかいろんなことを取り入れてきたのに、審判に関してはずっと勉強していない。最後の強化を忘れているんやね。試合は、選手がジャッジするんじゃないし、監督がジャッジするのでもない、審判がジャッジするわけです。しかも、審判の感覚は五大陸で違うし、国によっても違う。それをしっかりと勉強しておかなかったら試合で勝つことはできない。勝つために、もっと「審判」について勉強してほしいということを、強く訴えたいね。

※このインタビューは、2009年7月24日に行なわれたものです。


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