オリンピックメダリスト対談

谷本歩実×塚田真希2/3

   

2004年のアテネオリンピックと、2008年の北京オリンピックにおいて、史上初のオール一本勝ちで大会2連覇を達成した谷本歩実さんと、アテネオリンピック金メダリストの塚田真希さんによる夢の対談。
そんなお二人の出会った頃の思い出、一緒に出場した国際試合でのエピソードなどをお伺い致しました。

谷本の恩人であり、塚田の最高のライバル・薪谷翠

谷本歩実

谷本:
翠ちゃん(薪谷)は、私の一番辛い時期を食い止めてくれた人だったんだよね、筑波大学時代の。
塚田:
同じ大学だもんね。
谷本:
そう。一番辛くて柔道をやめようとまで思った時期があったんだけど、そのときに、翠ちゃん一人だけが「歩実、大丈夫か?」と声をかけてくれた。
それ以外の人はそうでもなかったんだけど、何かを察知したんだろうね。その一言をかけてくれて、そこから毎日食事に誘ってくれて。面倒見てくれて。「日本代表に一緒になろう」って言ってくれた。
その翌年、全日本選抜柔道体重別選手権大会で優勝して日本代表になれたんだけど、私にとって翠ちゃんの存在は大きかったね。
マキティも翠ちゃんへの思いは強いよね。
塚田:
そうだね。
谷本:
私からすると、二人の試合はすごい複雑だった。二人が「お願いします」って礼するだけで、涙が出るぐらい。どっちにもすごい思い入れがあったから。
私、二人の、お互いの本音を聞いていたのね。翠ちゃんも私にマキティのことをすごい相談してきた時期があったんだよ。
それは翠ちゃんも辛かった時期なんだけど。でも、決して蹴落とすようなことはなかった。話を聞いていても、マキティのことをすごい好きだという、尊敬しているという気持ちが伝わってきたんだよね。
で、自分が勝たなきゃいけないのは、選手としての塚田真希じゃなくて、一人の人間、塚田真希という存在なんだというのを、翠ちゃんはすごく悩んでいた。
塚ちゃんの組み手はこうだから、ああしようとか、だからこうして投げようとかって話は一切ないのよ。他の選手は、相手に対して「あの選手はあそこが弱いから、ここを狙おう」とかという話が多かったけど、翠ちゃんは全然違ったのよ。
でも、それはマキティも同じで、「私は薪谷先輩のことを尊敬しているけれども、やっぱり勝負は勝負だから」っていうところがあったじゃない。私はそのときに、翠ちゃんにもマキティにも言わなかったけど、二人とも同じところで悩んでいたんだよね。

塚田真希

塚田:
そうなんだ。
谷本:
そう。すごかったよ。私はお互いから話を聞いていたんだけど、どっちも同じレベルなのよ、話していることが。だから、すごいグッとくるものがあって。これは引退したら、二人に話したいなと思っていたことなの。
塚田:
そうなんだ。
谷本:
そう、すごかったよ、翠ちゃんもマキティも。私は話を聞いていて、本当に涙が出たもん。
そういう選手ってなかなか出会わないじゃない。お互いが蹴落とそうとしたり、弱いところを探す選手が多い中で二人は全然違って、すごいなと思ったの。
翠ちゃんが「塚ちゃんにすごく聞きたいことがあるんやけど、この時期に話しかけたら、迷惑やと思うし」って。
柔道のことで、聞きたいことがあるんだけど、これはどう思うかなっていうふうに聞かれるんだけど、私では、安易に答えられないのよ。
塚田:
それはそうだよね。
谷本:
それが私の中の、マキティと翠ちゃんの間に入ったときの思い出。だから、羨ましかったよ、ずっと。すごくいいライバルだなと思って。お互いがお互いを尊敬し合えるライバルなんだなって。
塚田:
知らなかった。
谷本:
知らなかったでしょう。私、マキティにも言おうと思っていたの、絶対に教えてあげたいと思っていたんだよね。

二人にとって大事な後輩中澤さえ

谷本歩実

谷本:
さえ(中澤)とはマキティが仲良かったよね。さえはあまり上下関係を気にしなかったから。
塚田:
そうだね。それまで私はけっこう年上の人と話すのが好きで、年下は苦手だったんだけど、それが全く無くなったのはさえのおかげ。
さえは、全く気を遣わないんだよね、私に対して。それがすごく心地良くて。
私が9月に引退を決めたときも、周りからは賛否両論あったけど、さえが「先輩がしたいようにしたんだから、自信持って下さい」って、けっこう長いメールをくれて。それで「間違ってなかったんだ」と思えたんだよね。
本人(中澤)が1年前に自分で引退を決めて、いろいろ経験してきたから、私に言えることなんだなぁと思って。それで、私はすごく勇気付けられた。
今はオーストラリアに行っちゃって、すごくさびしいんだけど。さえに関しては、後輩というより仲間という気持ちが強いかな。
谷本:
うんうん。さえが北京オリンピックで負けてしまった後、試合後さえとずっと一緒にいたの。移動するときも試合を見るときもご飯食べるときも、ずっとさえと二人だった。
でも、さえと仲がいいのは、もともとはうちの妹(育実)なの。妹が前十字靭帯の手術をしたときに、さえがちょうど同じケガをして、二人で励まし合いながらリハビリしていたから。
私はお姉ちゃんってことで、試合も一緒に回って、そこでお互いにしゃべるようになった。
北京が終わったときに、こんな特別な日にさえの近くにいるんだなと思ったのを覚えている。たぶん私、あの日のことは忘れないと思う。
塚田:
そうだね。試合で勝つ人の気持ちも分かるし、負ける人の痛みも分かるもんね、歩実ちゃんも私も。
それに、選手村って隔離されているというか閉ざされているから、ものすごくお互いに気を遣うというか、心遣いがし合えると思うんだよね。
試合に負けた選手も、勝った選手に気を遣わせないようにいろいろ配慮してくれたり、そういうのがなんかあるんだよね。
谷本:
ある。さえはあのとき一切、弱音を吐かなかったし、言い訳もしなかったし、相手も批判しなかった。

塚田真希

塚田:
そうだね。
谷本:
私、北京オリンピックのとき、柔ちゃん(谷)と同じ部屋だったのね。
私は次の日が試合だったから部屋にいたんだけど、そのときに荷物を取りに帰ってきて、ちょっと会話したときもそうだったけど。
すごく凛としていて、鳥肌がたつような雰囲気だったのね。本当に勝負師としてまだ試合がいまでも続いているかのような、そういう凛としたオーラがあって。
さえもそれと同じ雰囲気を持っていたんだよね。あれが、柔道家としての強さなんだろうな。言葉にするのは難しいんだけど…。
塚田:
感性だからね。
谷本:
そうだね。でもいろんな選手がいるじゃない。オーラや雰囲気を感じさせない選手も多いんだけど。
そのなかであの柔ちゃんのオーラと、さえの雰囲気が似ていたんだよね。強さだね、あれは。
塚田:
さえは、ダメダメな先輩を、大きく受け止めてくれた大事な後輩。
谷本:
うん、大事な後輩だね。

谷本の優勝を言い当てていた塚田

塚田真希

塚田:
歩実ちゃんが、試合で負けるかどうかは、試合前の練習を見ていてだいたい分かった。
今日は「負けないな」と感じたときは優勝していたし、それが感じられないときは、歩実ちゃんは負けていて。
今回歩実ちゃんが負けるとしたら「指導」で負けると思うよっていつかの大会のときも言ったよね。
谷本:
うんうん。言ってた。
塚田:
北京オリンピックだっけ?
谷本:
そのときマキティは、絶対に歩実ちゃんは投げられないって言ってた。
負けるとしたら「指導」で負けるかもしれないけど…、でも、負けないと思うよって言ってくれたんだよね。
塚田:
そうだったね。歩実ちゃんは「投げられない」って、NTC(味の素ナショナルトレーニングセンター)での合宿の練習を見て感じたんだよね。
いいときの歩実ちゃんは、私にはすぐに分かるんだよね。
谷本:
けっこう声かけてくれたよね。
塚田:
どうしても言いたくて(笑)。

谷本歩実

谷本:
マキティが「歩実ちゃん、今回はいけるよ。絶対にいけるからね」って言ってくれたときは、ほとんど優勝していると思う。
でも、たぶん覚えてないかもしれないけど、ミュンヘン世界柔道選手権の前の全日本選抜柔道体重別選手権大会のときも「いけるよ」って声かけてくれてんだよね。
その前の合宿のときに。「歩実ちゃん、チャンスだよ。分かっていると思うけど、チャンスだよ」って。
私が「無理だよ〜、そんなのないよ、ない」って言ったら「歩実ちゃん、絶対チャンスだよ」って怒るかのように言ってくれたんだよね。
塚田:
そうだっけ。
谷本:
「必ずいける、今回はいけるよ。チャンスだよ!」って言ってくれたときは、ああ、そうなのかなと思った。
「それを自覚しないと、チャンスはたぶん逃げていくよ。でもチャンスだって自分が思えば、絶対に代表をつかめるよ!」って話をしてくれたんだよね、説教するかのように。
塚田:
自分自身は世界柔道選手権ミュンヘン大会に出られなかったくせに(笑)。それで、さんざん先生に怒られた。

引退したあとに感じた塚田の別格の強さ

谷本歩実

谷本:
私がマキティに強さを感じたのは、自分が引退してからだった。
このあいだの世界柔道選手権(東京大会)を見たときもそうだったけど、「あぁ、すごいな」と思った。こんなに自分だけですべてをコントロールしていたんだなぁと。
モチベーションにしても、打ち込みにしても、強さの圧力にしてもパワーにしてもそうだけど、一緒にやっているときは、それが当たり前という感覚で見ていたんだよね。すべてが強いから当たり前だって。
でもそれが、私が一線から離れたときに、普通の人たちと同じ目で見たときに「わー、なんだこのオーラは」って感じたんだよね。そのときにマキティの強さというのが分かったような気がした。
それまで「塚田真希=強い」は当たり前で、勝つのは「強いから当たり前でしょ」くらいに思っていたけど、そのときに人との違い、強さっていうのを改めて感じたのね。ホント別格だなって。
あとはやっぱり試合を見ていて、マキティって正々堂々とガッといくじゃん。あれがすごい好きだった。

塚田真希

塚田:
歩実ちゃんの「一本柔道」もかっこ良かったよ。「一本柔道」って、言うだけでもすごく大変なことだと思うんだよね。実際にはそう簡単に「一本」を取れるわけじゃないし。
でも、どれだけ大変かということを分かったうえで、あえてそれを公言して、自分を奮い立たせる。その気持ちの強さとプライドは、ホントにすごいなぁと思ってた。

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